第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「千くん、それなぁに?」
「姉上! 見てください、この炊き合わせ! 里芋も人参も椎茸も彩りが華やかで艶もよくて…っ甘味を感じる程素材の味を惹き立たせているのに、口の中で喧嘩しないんです! こんなに上品な炊き合わせ初めて食べましたっ」
「うんうん。千くんって表現力が高いから、聞いてて凄く美味しさが伝わってくるよ」
「そうですか?」
「杏寿郎はうまいの連呼だし、天元はお酒ばっかりだしね」
「ぁ…確かに…」
「それでも美味しそうに食べる姿が一番だけど。あ、お米もうないね。おにぎり取ってこようか」
「姉上の手を煩(わずら)わせるなんて…」
「私、食べる必要ないから暇で。お手伝いできた方が嬉しいし、早くしないと杏寿郎に全部食べられるよ」
「じ、じゃあ…お願いします」
「うん」
おずおずと千寿郎が差し出してくる空の皿を、笑顔で受け取る。
杏寿郎の食べっぷりがどうしても目立ってしまうが、千寿郎もしっかりと食す方だ。
日々の体造りの為の、食の大切さを知っているのだろう。杏寿郎と同じく米粒一つも残さない。
そんな成長期の少年には沢山食べて欲しいと、世話も焼きたくなるものだ。
「空いた酒瓶、貰っていくね。というかそんなに飲んで大丈夫なの…明日に響いても知らないけど」
「俺様を誰だと思ってんだ? 毒に抗体あるっつったろ。酒の成分だってすぐに分解しちまうんだよ」
「え。それは………可哀想」
「だろ!? あの酔いに浸る感覚が好きだってのによォ! すぐ醒めちまうんだよな…! よし蛍! お前も飲め! 俺につき合え!!」
「ってお酒臭っ! 顔近付けないで!!」
「はい、お肉ばっかり食べていないで野菜もね」
「うむ! うまい!!」
「これは箸休め」
「うむ! これもうまい!!」
「この水炊きも胃に優しそうだし。どうぞ」
「うむ! とてもうまい!!」
「あ、さつまいもが入ってるよこれ」
「わっしょいッ!!!!」
千寿郎だけでなく、天元や杏寿郎の間もせかせかと動き回る。
空いた酒や御膳を下げ、追加の料理を運び、小皿に新たなおかずをよそいながら、言葉を交わし相手をするのも忘れない。