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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



「それでも情報は情報だ。俺はまだこの街に数日滞在する予定だし、与助が現れるか見張ってやってもいいぜ」

「えっ」

「それは真か、宇髄」

「ああ。お前、お館様に列車の長期任務任されてただろ? 大方今も任務の最中だろうし。俺も遊郭での長期任務中だが、お前と違ってこちとら待機組だ。融通は俺の方が利く」

「それは助かる! だが今は休暇を頂いている身だ。できればその任務前に与助を捕えたい。無限列車に発つ間際まで、俺も駒澤村付近を捜すこととしよう。それで異論はないか? 蛍」

「うん。ありがとう、杏寿郎。天元も」

「うむ」

「はは。お前に素直に礼言われると、なんか調子狂うな」

「そういう時は素直に受け取っておけばいいよ」


 茶化すように天元が笑えば、溜息混じりに蛍も笑う。
 茶化すようなものではなく、呆れるようなものでもない。
 そんな反応だから調子も狂うのだと、天元はいつになく棘のない蛍の目を見返した。


「何?」

「…まぁ、それに例の十二鬼月がこの街に戻って来ないとも限らないしな。約束はしたんだろうが、鬼って奴は平気でそういうもんを破る生き物だ」

「…大丈夫だよ。多分」

「何故そう言い切れる?」

「会ったから。その鬼と、顔を見て言葉を交えたから。約束って言葉も、言い出したのはあっちからだったし。多分、破らないと思う」

「へえ。随分と理解を深めたみたいだな?」

「…別に」


 童磨が花街の女達を襲わない理由は、この体を差し出したからだ。
 そんなこと言えるはずもないと、蛍は口数少なめに天元から目を逸らした。

 敢えて逸らすような仕草ではない。
 自然と流れる視線に、だからこそ天元の目は止まる。


(こいつは…)


 忍は普段から素顔を隠す者だ。
 そういう生活を強いられてきたからこそ、天元には読み取れる些細な仕草だった。
 さり気なく他者の目から逃れる蛍の巧みさは、一朝一夕で身に付けたものではない。
 天元と同じく、そんな生活をしていたからこそ身に付いたような自然なものだった。

 だからこそ今一度確信する。
 やはりあの時、聴いた蛍の心音はクロだったのだと。

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