第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「ただの小物?」
「そうだ。吐かせても吐かせても出てくるもんは、しょーもない小悪党が小銭稼ぐようなことばかり。鬼とも関係ねぇし。よって男はただの小物だな」
「そうなんだ…」
風呂上り。
浴衣に茶羽織の楽な格好で蛍が部屋へと戻れば、待っていたのは拍子抜けするような天元の報告だった。
千寿郎の成果により捕えた男は、天元の尋問で吐けるものは全て吐いた。
ただしどれもが空振りするような情報だったのだ。
「ただ一つ、お前ら限定で気になるであろう情報は手に入れた」
「そうなのか?」
「えっ何それ?」
しかし一つだけと人差し指を立てる天元に、並んで耳を傾けていた杏寿郎と蛍が前のめりになる。
そこで口を開いた天元は、二人ではなく隣にちょこんと座っている千寿郎へと目を向けた。
「千坊。説明してやれ」
「えっ私ですか?」
「お前が上げた成果の一つだからな。千坊から二人に伝えてやんな」
「は、はいっ。…あの男の人が女性の写真を集めていたのは、どうやら依頼を受けていたからだそうです」
「依頼…」
「ふむ。背後に黒幕がいたのか」
「それで、その依頼主って?」
「それが…松平与助という名の男だったみたいで」
「まつひら」
「よすけ…っ?」
思わず杏寿郎と蛍は顔を見合わせた。
苗字は知らずとも名前は知っている、今正に追っている男と同じだったからだ。
「十中八九、お前らが捜してる与助って男のことだろ」
「それで、その松平与助の出所は掴めたのか?」
「そこんとこはさっぱり。与助は不定期にこの街に足を運んでは、写真だけ購入して去っていくそうだ。目的は女自身じゃなく、写真だけってことだな」
「じゃあ今回も男の写真を買い取りに来る可能性があるよね? そこを狙えば…」
「それが今回は、依頼じゃなく男の独断で写真を集めていたんだと。どうせまた連絡が来るだろうと踏んでな。与助の連絡先も何も知らねぇみたいだし、不確定要素だらけの中で地味に相手が動くのを待つってのも骨が折れる話だ」
「そう、なんだ…」
見るからに肩を落として蛍が声を萎ませる。
その様に「まぁなんだ、」と天元は話を続けた。