第22章 花いちもんめ✔
「俺も経験上、毒に慣れてる体質だが、だからって好き好んで毒を食らったりしねぇよ。…お前だってそうだろ」
その手を小さな頭に乗せると、同じくぐしりと掻き撫でる。
手荒だが、そこに冷たさはない。
「痛みなんて経験しない方がいいに決まってる。拷問覚悟の前に敵に捕らえられないよう、そこに最善を尽くせ。いいな」
「ぅ、うん」
「じゃねぇと隣の過保護柱が大噴火するだろうし」
「そうだな! 噴火とまではいかないものの爆発はするだろうな!」
「派手に同じだそりゃ」
快活な声がその場に響けば、途端にその場は杏寿郎の空気に塗り替わる。
解放された腕をひらひらと振りながら、天元は苦笑混じりに二度目の溜息をついた。
「蛍」
「何?」
腰を屈めた天元が、改めて蛍と視線を合わせる。
「もう一度訊く。鬼に痛手は負わされなかったんだな?」
一寸も逸らされない視線を蛍は受け止めると、こくりと無言で頷いた。
迷う仕草や気配は見受けられない。
時間にして凡そ数秒。
「それならいい」と肩の力を抜くと、天元は徐に腰を上げた。
「なら俺の話はこれで終わりだ。いつまでも川底の臭いさせてんのも地味に鼻に刺さるし。湯でも貰って綺麗にしてこい」
「え…く、臭い?」
「清潔とは言い切れないな! 俺も供に行こう!」
「それなら私も一緒に行きます。この宿の浴場の場所は覚えていますから。姉上、こっちです」
「ありがとう二人共。…そんなに臭いの」
犬猫を追い払うように天元に追い立てられ、くんくんと腕の匂いを嗅ぎながら蛍が不安げに進む。
そんな一番小さな蛍を真ん中に、歩む焔色の頭も二つ。
「しかし衣類だけでなく宿まで借りてしまうとは! お松殿には世話になりっ放しだな!」
「でも御宿代はきちんと払っていましたよ。音柱様が」
「む!? そうなのか!?」
「お松さんも、タダで貸す訳ないって言ってましたし」
「あ。それ、松風さんらしい」
去っていく三人の空気は和やかだ。
反して天元の顔色は晴れることなく、出入口の襖に背を預けると他人には届かない程の小さな溜息をついた。