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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



「悪いな。あいつの命を奪わない代わりにこいつの命を奪う。そういう話だろ。良い訳がねぇ」

「……で──」

「あ?」

「……」


 でも、と漏らしかけた言葉を蛍は呑み込んだ。

 自分にできる限りのことをした。
 それでも相手の指先一つ止めるにも実力が及ばなかった。
 体を全て差し出しても、できたのは精々この場の命を救うことだけ。


("でも"、なんて…結局は私の為の言い訳だ)


 「でも自分にはそれしかできなかった」
 そう主張しても、童磨の手によってこれから命を落とす人間には、ただの言い訳にしかならない。
 己の体を曝け出した行為だって、口にできるはずもない。

 何も言えずに唇を噛み締めるだけの蛍の視線が下がる。


「まぁ唯一の幸運は、お前が攫われなかったってことか」


 引っ掴んだ時とは真逆の丁寧な仕草で腕を下げる天元に、ゆっくりと蛍の両足が床に着いた。
 後ろ襟を掴む手から解放されて、小さな顔が天元を見上げる。


「十二鬼月には、お前が鬼殺隊に属してる鬼だって悟られなかったんだろ?」

「うん…」

「それだけは幸いだったな。悟られちまえば、必ず鬼側もお前に手を出してくる。そうなりゃ鬼殺隊の内部を知ってるお前から、敵に情報が漏れちまう危険性も出てくる」


 非難の声はなかったが、徐に天元の腕を握り込むように杏寿郎の手が鷲掴む。
 ぎちり、と筋肉が軋む程の力で握ってくる男の眼は、怒号を飛ばさずともありありと感情を語っていた。


(ハイハイ。言い過ぎましたよ)


 燃えるような業火の瞳を見返して、天元もまた無言で肩を竦めた。

 仲間として見るならば、情報漏洩より先に考えるべきは蛍の命の安否。
 それを軽率に扱うなと言っているのだろう。


「っ情報は、漏らさないよ。絶対に。鬼殺隊のことは、何も話さないようにする。手足を千切られたって大丈夫。痛いことには慣れてるし…どうせ、すぐに治るから」


 継ぎ足すように告げる蛍の声に、偽りの音はない。
 本気でそう覚悟しているのだろう。
 例え体を引き千切られようとも仲間の情報を売る気はない。
 そう、濡れた小さな体で告げる蛍を前にして、ぐしりと天元は己の頭を掻いた。

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