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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



「だからわかったって。千坊にも邪(よこしま)な欲を見せる野郎がいるんだ。蛍にもそういう類の目が向いたんじゃねぇかって思っただけだっつの」

「蛍は同類の鬼として攫われたんだ。だから相手の鬼も蛍の言葉に耳を傾けて、話を聞いた。この場の人間を襲わないと約束できたのも、その結果だ。今し方、報告したはずだが?」

「わかったって言ってんだろ。俺は蛍と向き合ってんの。気持ちはわかるがちょっと黙ってろ蛍過保護柱サンよ」

「む…」


「ぁ、兄上。音柱様も待機中、ずっと心配されていたんです。お気持ちを察してあげてください」

「千坊の方が余程物分かりいいじゃねぇか。心配っつーか焦れったさの方が勝ってたけどな」


 控えめながらも千寿郎が主張すれば、杏寿郎も強くは出られなかった。
 眉間に皺は刻んでいるものの、渋々と唇を結ぶ。


「で。十二鬼月に引っ攫われて、話をしてみれば案外通じて、この街の人間には手を出さない。そういう約束事を取り付けて逃げ出したんだよな?」

「…うん」


 改めて蛍から得た情報をおさらいするように告げる。
 こくりと頷く蛍をじっと真正面から見つめたまま、天元は鋭い切れ目を細めた。


「ならその見返りはなんだ?」

「…見返、り…?」

「出会ったばかりの相手に、無条件で貢献するなんざ凡そ鬼らしくない行動だ。お前みたいな鬼なら別だが、十二鬼月ともあろう鬼なら大勢の人間を喰ってるはず。そいつが一端の鬼の願いを聞き入れて、目の前の馳走を易々と見逃すか?」

「…でも、結果的には見逃してくれた」

「そいつにとって好条件な何かがあったってことだろ。例えば、別に餌を見つけただとか」

「…あの鬼が何を考えていたか、私にはわからない。別の場所に、餌を見つけに行ったのかもしれない。でも、この場の命を奪うことは止められた。…それは悪いこと、なの?」


 宙吊りにされたまま、俯き加減に下がっていた蛍の目が恐る恐ると前を向く。
 はっきりとは主張し切れず、それでも尻込みもせず。己の言葉に迷いを見せながらも告げる蛍に、じっとその目を見返した天元は徐に溜息をついた。

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