第22章 花いちもんめ✔
照れ臭そうに笑う千寿郎の功績を讃える蛍は、いつもの蛍だ。
しかし川の水で体を冷やした所為か、青白い顔をじっと見下ろしていた天元は、徐に眉を片方顰(ひそ)めた。
「失礼」
「っ!?」
「むっ!」
「あっ」
大きな手が羽織の中に手を突っ込み、蛍の後ろ襟を掴んだかと思えばひょいと持ち上げる。
軽々と杏寿郎の腕の中から引き抜かれた小柄な体は、天元の目線の高さに宙吊りとなる。
「な、何…っ」
「お前、よく十二鬼月相手に無傷で生還できたな」
「それなら話したでしょ…っ私は鬼だから、餌の対象にされなかったって」
「だとしても、逃げ出したってことはそれなりに相手に危機感を覚えたってことだろ?」
「相手が十二鬼月なら、危機感も覚えて当然だから。というかそんなところ掴まないでっはだける…っ」
「おーおー、がきんちょの裸なんざ見てもなんも感じねぇよ。安心しろ」
「俺が迷惑被るのだが!?」
「っと」
「!?」
じたばたと暴れる蛍を涼しい顔で持ち上げていた天元を、杏寿郎が黙って見ているはずもなかった。
それを察知していたのか。奪い返そうと素早く伸びた手を、ひょいと更に蛍を持ち上げて天元は回避したのだ。
驚く杏寿郎を見て、飄々とした顔で告げる。
「ちゃんと返すから待ってろ。俺は今蛍と話してんの」
「っ…そんな体制で話さなければならないことなのか?」
「勿論」
杏寿郎の反感を買うのは十分にわかっていた。
低い声で唸るように告げる杏寿郎に、それでも天元の顔色は変わらない。
「蛍。お前、頭に付けてたリボンはどうした」
「えっ」
「お松からの借りモンだ。返さなきゃなんねぇしな。どうした、失くしたか」
「え、と…川から、上がった時には……ごめんなさい…」
「ふぅん?」
「宇髄、蛍を責めるな。致し方ない理由だ。リボンも着物も全て俺が買い取る。それで問題ないだろう」
「わかったわかった。別にそれで責めちゃいねぇよ。訊いただけだ、横槍入れんな」
「入れるようなことを言うからだろう。君が」