第22章 花いちもんめ✔
頸を振る蛍の否定をやんわりと遮り、羽織で隠すように頭も体もすっぽりと覆わせた。
そのままゆっくり抱き上げると、小さな体はすんなり杏寿郎の腕の中に納まる。
「身動きし辛いだろうが、暫く大人しくしていてくれ」
「自分で、歩けるよ。これじゃ杏寿郎の荷物になる」
「俺がこうしていたいんだ。離れずに傍にいて欲しい」
一時も目を離さないようにと。抱く腕を決して解こうとしない杏寿郎に、蛍もやがて大人しく身を預けた。
「詳しい話は、戻りながらでいい。十二鬼月が関わっているなら大事な情報だ。何があったか教えてくれるか」
「……うん」
「──で? その十二鬼月は見つからなかったって訳か」
「そうだ!」
「炎柱ともあろうモンがそんな大物取り逃がすってお前…」
「取り逃がしたのは私だから…っ杏寿郎は悪くない」
「そういうお前はなんで簀巻(すま)きみたいな恰好になってんだよ」
「十二鬼月から逃げる際に川に飛び込んだようでな! ずぶ濡れになってしまったからだ!」
急かす虹丸の声に押されるまま。杏寿郎が蛍を抱いたまま天元と向き合う形となったのは、一時間と経たずしてだった。
蛍を発見した後の杏寿郎の行動は迅速だった。
指摘のあった拝殿内を中心に僅かな鬼の痕跡はないか探索と聴取を行い、今手に入る限りの情報を集めた後(のち)に千寿郎の待つ宿へと足早に戻った。
「ごめん、杏寿郎。もういいよ下ろして。羽織も汚してごめんね、私洗うから」
「いい、構うな。それより蛍の体を乾かす方が先だ」
「それなら大したこと」
「姉上! よかった、無事だったんですねっ」
「千くん」
羽織による簀巻き状態となったまま、もぞもぞと身動ぐ蛍を、杏寿郎は抱いたまま離そうとしない。
そこへ普段の袴姿へと着替え終えていた千寿郎が、安堵の表情で駆け寄ってくる。
迎える蛍も、千寿郎の笑顔につられて表情を和らげた。
「千くん、囮作戦で写真機を持った男を捕まえたんだってね。凄い」
「あれは、姉上が教えてくれた護身術のお陰でしたから」