第22章 花いちもんめ✔
「異邦人のような身形の男に連れて行かれたと人伝に聞いた。何か事件に巻き込まれたのか?」
「……それは…」
「……」
「……」
「…よもや、与助のような男に出くわしたのでは…」
「ぅ、ううん。それは、ないよ」
尻窄みする蛍に、杏寿郎の声も低くなる。
慌てて頸を横に振る蛍の髪から、僅かな水滴が飛んだ。
「…鬼に、会って」
「鬼に?」
「瞳に、文字が刻まれた」
「! 十二鬼月か…っ」
杏寿郎の顔色が変わる。
目線を合わせる為に膝立ちしていた足腰を上げると、日輪刀の柄に手に添え辺りを警戒した。
(それらしい気配はない…意図的に隠していたのは本当だったのか)
漏れ出す鬼の気配を遮断できる程の持ち主。
となれば相手が十二鬼月でも不思議ではない。
「もう、行ってしまったから。此処にはいないと思う」
「それは、人を喰べずに去ったということか? 十二鬼月ともあろう鬼が」
「…私が、約束させたから」
「十二鬼月と話をしたのか」
真相を早急に知る必要はある。
しかし全身濡れ鼠の蛍をそのまま放置する訳にもいかない。
鬼は去ったというのは本当なのだろう。
それらしい気配は何処にもなく、今まで街中を駆け回っていたが、人間の悲鳴も一つも聞いていない。
「その鬼が何処へ去ったかわかるか?」
「ぅ、ううん」
「ならば何処にとどまっていたのか…この下の河川か」
「ううん…この先の大通りの隅にある、小さな拝殿の中で…」
ぽそぽそと小さな声で報告する蛍に、覇気は見受けられない。
俯きがちの髪の先から、ぽたぽたと止まることのない雫が落ちていく。
日輪刀から手を離すと、杏寿郎は己の羽織に手をかけた。
ふわりと舞わせた炎の羽織で、小さな体を包み込む。
「少し時間をかけてしまうが、その場を一度洗ってから千寿郎達の処へ戻ろう。それまで濡れた体で気持ち悪いだろうが、少しだけ耐えてくれるか」
「ぃ…いいよ。鬼だから大丈夫。それより杏寿郎の羽織が濡れて」
「それくらいどうともない」
「でも…」
「いいから」