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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



(痕跡が全くない方が可笑しい。意図的に蛍を隠された可能性がある)


 となれば、相手は蛍の正体を知っているのか。

 虹丸の言う通り、人の溢れたこの場所で敢えて鬼を狙う鬼など考え難い。
 となると相手は人間か。

 この花街で蛍のことを知っている人間など、杏寿郎の与(あずか)り知らぬところに大勢いるはずだ。
 否、この地では〝蛍〟ではなく〝柚霧〟を知っている者達となる。

 与助のように。


「…っ」


 足を止める。
 無意識に噛み締める唇に力が入った。

 人間であった蛍を喰らったあの男と同じような者が、まだいたとしたら。
 蛍の心の奥底を荒らす者が、また現れたのだとしたら。


(一刻も早く見つけ出さなければ)


 再び血鬼術による暴走を心配するよりも、蛍自身の心を思って焦燥を覚えた。
 自分の知らぬところで、一人傷付けさせたくはない。


「この場からは三度(みたび)捜したが見つからない。地に足をつけて捜す」

「コノ人混ミジャ、ソノ方ガ発見シ難インジャネェノカ?」

「人伝にも訊いて回る。君は上から捜せ」

「ダカラ俺ハ離レネェッテ」

「なんの為の翼だ。早く主の処に連れ戻したいなら、俺の目の代わりをしろ」


 起伏のない静かな声だが、先程とまるで圧が違う。
 視線も交えていないのに、背筋を走る寒気に虹丸は大きな嘴を閉じた。

 虹丸の反応も見ずに、トンと屋根の上を跳ぶと杏寿郎は一直線に人通りへと舞い降りた。

 蛍のことを訊いて回るのも、これが三度目となる。
 今まで有力な情報は一つもなかった。
 それでも虱潰(しらみつぶ)しに回る他ない。


(これで駄目なら、宇髄の手も借りる他あるまい)


 人々を驚かさないようにと下りた人影のない建物の間から踏み出す。
 まずは、と小さな石橋の傍に立つ女性へと足早に歩み寄った。
 片手を上げて声をかける。


「もし──」


 ぱちゃりと、水飛沫が跳ねる音がした。

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