第22章 花いちもんめ✔
「だから要らない…って取れない!?」
「うん。外したいなら自分の足を切断するしかないね」
「な、ん…ッ! ほ、本当に取れない…!」
余裕を持って緩く結ばれただけだというのに、どんなに引っ張っても千切れる気配はまるでない。
「次に蛍ちゃんと会う時に、外してあげる。それまで大事に身に付けておいて」
「何それ…っ」
「足首なら日常生活で邪魔にはならないだろうし。飾りだとでも思って。ね?」
こてんと頸を傾げて笑いかける童磨に、蛍は顔を顰(しか)める他なかった。
実力差は嫌という程、感じている。
童磨の眼球一つにも、自分の力は負けてしまうのだ。
(これが、上弦…)
柱の実力も並々ならぬものだと知っていはいたが、常識を超えた能力を有する上弦の鬼は、更なる未知の恐怖を蛍に植え付けた。
「では俺も、今宵はこれで去るとしよう。蛍ちゃんと約束したし、此処では食事ができないからね」
「…他の場所でするの?」
「うん? ついて来ればわかるよ」
「行かない」
「あはは、そうだろうね」
素っ気なく余所を向く蛍の頭を、するりと優しくひと撫でする。
霜がびっしりと張り付いていた天井も床も壁も扉も、童磨が腰を上げた時には水滴を残すことなく消えていた。
「いつまでもそんな恰好でいたら、他の男に喰べられてしまうから。きちんと着替えて、お帰りよ」
(…どの口が言う…)
蛍の心の悪態は目を見て伝わりでもしたのか。くすくすと含み笑いを零しながら、童磨は出入口である扉を開けて潜り抜けた。
「またね、蛍ちゃん」
既に再生している虹色の両目を、やんわりと細めて振り返る。
カタンと小さな音を立てて扉が閉まると、その場の空気まで変わったように感じた。
童磨の高い背丈の影が、光の中に消えていくのを襖越しに見送る。
完全に影が消え去ってようやく、蛍は張っていた緊張を解くように肩を落とした。