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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 抱かれることには慣れている。
 力により蹂躙されたこともある。

 今更だ。

 泣いても喚いても懇願しても、助けてくれる者など今までいなかった。
 だからそういうものに頼ることはやめた。


「ふーん。普通じゃないっていうのは納得いかないところもあるけど。蛍ちゃんと一緒なら、悪くはないかな」


 考える素振りを早々と止めた童磨は、言葉通りに笑う。
 そこには心底嬉しそうに笑顔を見せる姿があって、蛍はなんとも言えずに押し黙った。


「そうだ。なら今日の分の支払いはしておかないとね。蛍ちゃんの体を頂いた分」

「いいよ、そんなもの今更──」

「よくないよ。待ってて」

「ッ!? 何して…!」


 懐から賃金でも出すかと思いきや、童磨が鋭い爪先を向けたのは己の顔だった。

 ぐちゅり。

 柔らかい肉を抉るような、身の毛もよだつ音を立てて、鋭い爪先が己の眼球を抉り取ったのだ。
 ころりと掌に転がるは、虹色の瞳孔を持つ眼球。


「これ、借りるね」


 そこに解けて床に落ちていた空色リボンを拾い合わせると、童磨は片手で握り込んだ。


「今手持ちはないけど、これならそれなりの値打ちになるだろうし。蛍ちゃんにあげる」


 やがてはいと差し出されたものを見て、蛍は驚いた。
 潰した眼球でも出されるのかと身構えたが、そこにあったのは全くの別物だったからだ。

 空色のベースはそのままに、きらきらと光の当たり具合で虹色に輝くリボン紐。
 童磨の虹色の瞳の色を全て吸い込んだような、美しい装飾品へと変わっていた。


(…綺麗…)


 思わず魅入ってしまう程に美しく、前屈みになる姿勢を蛍はハッとして戻した。


「ぃ、要らないっ」

「そんなこと言わないでおくれよ。気持ちだと思って」

「元は童磨の眼なんでしょ?…キモチワルイ」

「グサッとくるなあ。眼は希少価値が高いんだよ? 特に十二鬼月のものは、階級の証でもあるし」


 言葉とは異なりにこにこと笑いながら、気にした様子なく腰を落とす。
 裸足の蛍の足首に、童磨はゆるりとリボンを結び付けた。


「はい。これで今夜は許してくれるかな」

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