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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



「なに馬鹿なこと言ってんの。散々好き勝手したんだから、これ以上の奉仕は致しませんお客様!」

「お客って。そんな冷たいこと」

「童磨が最初に自分で言ったんでしょ、私を拾った男だって。なら一夜だけ。それ以上の手出しは許さないし、延長もしない。さっさとお帰りくたばれください!!」

「えーっでも俺、蛍ちゃんにお金払ってないけど」

「ならさっさと払って。私の体重の十倍の金貨」

「十倍? 今の蛍ちゃんくらいの軽さなら然程」

「何言ってるの。大人の私の体重に決まってるでしょ」

「…随分値打ちが高いんだね?」

「鬼の私を好き勝手に蹂躙して、安いと思った?」


 花形の花魁でも億単位で身請け金が行き交う時代だ。
 それくらい払って然るべきだと、蛍は童磨の再生した手を冷たく払い退けた。


「私は人間の夜鷹(よたか)じゃないの。抱かれたい相手は自分で選ぶ。あんたみたいな男に、ただで触れさせる気はない」


 一言、一言、突き刺すように告げる。


「今日はこれ以上触らせる気もない。さっさと、帰って。今すぐ」


 蛍の態度に黙って払われた手をまじまじと見ていた童磨は、更にまじまじと蛍を見つめ直した。


「…蛍ちゃんって、変わってるねえ」

「はぁ?」

「俺に抱かれた女は大体、泣くか、怒るか、呆然とするか、はたまた気が触れるかするのに」

「…怒ってますけど?」

「そういう怒り方じゃないよ。言葉も通じないくらい、憤慨するのがほとんどだ」

(…相手が鬼なら、憤慨もするでしょ)


 「なんでだろうね?」と不思議そうに頸を傾げる童磨に、蛍は本音を胸の内にしまい込んだ。
 丁寧に伝える気などない。


「でも蛍ちゃんは、嫌がってた割には回復も早いし。鬼としての体は当然のものとして、心もね。重々しく受け止めないから、俺としても嬉しいよ」

「……」

「お互いに気持ちよくなってることなのに、自分が被害者みたいな顔をするんだもんなあ。人間の女は皆」

「…それが普通でしょ」

「え? そう?」

「私やあんたが普通じゃないだけ」

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