第6章 柱たちとお泊まり会✔
──カシャンッ
突如響く音に、その場に溢れていた謎の声がぴたりと止みました。
原因は恐怖の余りに佐本が取り落とした日輪刀。
びくんと跳ねた体が途端に動けるようになり、後はもう無我夢中でした。
奇声とも悲鳴ともわからぬ声を上げて私達はその場から逃げ出しました。
一度も振り返らずに、一度も足を止めずに。
喉が枯れるまで、足が棒になるまで、近くの人里に駆け込んだのです。
それから一度もあの謎の赤子の姿は見ていません。
佐本は黒いぼんやりとした影は見たけれど、奇妙な声は一度も聞かなかったそうです。
ただ一つ。
あの夜から寝床に着いた後や夜一人でいる時など、無音である時に微かな耳鳴りを聞くようになりました。
最初はキーンとしたただの耳鳴りでしたが、所々ぶつりと途切れ、何かの音のように聞こえるのです。
最初は、ほんの微かな音。
それが徐々に足を忍ばせるように、背後から段々とはっきりと届くようになってきた頃。
ようやくそれがただの耳鳴りでないことに気付きました。
「…ぉ…ぃ…ぁ…」
赤子が喉を締めたような、か細い廃れた声。
ぞっとしました。
慌てて佐本にも問い質しましたが、彼は何も聞こえないと言うのです。
何故私だけが。
祠を壊したのは佐本だというのに。
あれを壊してしまったが為に、あの場に踏み込んでしまったが為に、何かに憑かれたのだとしたなら。
すぐにあの祠を探し回りに行きました。
しかしどんなにあの山中へ足を運んでも、小さな祠は見つからないのです。
それでも日に日に大きくなってくる耳鳴り。
眠りに着く度に、足を忍ばせるようにして近付いてくる声。
気が狂いそうでした。
何故意味もかわらぬ声を発してくるのか。
何故私を追いかけてくるのか。
日に日に睡眠時間は減っていき、神経も擦り減っていきました。
それでも追い縋ってくる声はもうすぐ後ろにいます。
姿は見えません。
しかしいずれまた、あの赤子の姿で現れるのでしょう。
それを認めた時、漠然と理解しました。
おひぃだぁ、おひぃだぁ、と赤子の鳴き声のように感じていた声。
それは赤子の声ではなかったことに。
淡々と、既にそれは答えを告げていたのです。
おまえだ、おまえだ、と。