第6章 柱たちとお泊まり会✔
転げるように山中を下る私の表情は切羽詰まっていたのでしょう。
最初こそどうしたと声を荒げていた佐本も、最後には黙って私に従っていました。
そうこうしているうちに、どうにか山中を抜けることができ、開けた道へと出ました。
お互いに切らした息を整えながら、見合わせてほっと息をついた時。
パキリ、
小枝を踏むような音を聞いたのです。
確かにその音は背後の山中から聞こえました。
私を見ていた佐本の目が、私越しに何かを見つけたように目を見開いています。
明らかに私の背後に何かを見たのでしょう。
私は振り返れませんでした。
「おひぃだぁ」
何故なら、赤子のようなその声をはっきりと耳元で聞いたからです。
「おひぃだぁ、おひぃだぁ」
赤子が喉を締めているような声なのに、淡々と耳元で囁いてくる。
その異様さに体が硬直して動けませんでした。
それは佐本も同じでした。
ただただ見開いた目で、私の背後を凝視しているのです。
しかしその顔は動かずとも、目だけが動いているのを確認することができました。
私の背後から、胴、足元へと。
それと同時に、パキパキとあの爪を踏み潰すような音が近付いてくるようでした。
奇妙な声の合間に聞こえる、ひゅーひゅーと掠れた隙間風のような音。
生暖かい息を足首に感じて、ぞわりと鳥肌が立ちました。
見てはいけない。
そう直感しているのに、何故か眼球だけが動くのです。
ギリギリにまで見開いた自分の目が、下へ下へと下っていく。
それは私の後ろにも横にも前にもいませんでした。
見下ろした両足の間。
その僅かな隙間にだけ、挟まるようにしてそれは存在していたのです。
全身真っ黒に焦げたような、赤子程の大きさの謎の塊。
しかし鼻も口もなく、ぼんやりとした影のような輪郭で私の足の間に挟まっているのです。
「おひぃだぁ」
ただ唯一、私と同じに限界まで見開いた両目でこちらを見上げて、奇妙な声を上げ続けていました。
「おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ、おひぃだぁ」