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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 本来触れられるはずのない喉奥の薄い粘膜を、擦り上げられる気持ちの悪い感覚。
 何度も嗚咽を繰り返すのに、何も吐き出せない。
 暴れていたはずの抵抗がやがてびくびくと力無き震えに変わる頃、ようやく開放された。


「げほ…ッ!」

「うんうん。よく頑張ったね」


 時間にして一分も経っていない。
 ずるりと蛇のように長い舌が抜き取られると、蛍は強く咳き込み身を震わせた。


「ごほッげふッ」

「急に吃驚したよね。でももうこれで大丈夫」

「ッ何、…して…ッ」

「血を飲むのに抵抗があるなら、こっちの方がいいかなって。直接胃袋まで届けてあげたから、効き目も早いと思うよ」

「効き、目?」


 涙目で睨む蛍の視界に、舌を縮小させながら笑う童磨が見える。


「っ?」


 その姿が、ぐにゃりと歪んだ。


「う…?」


 身に覚えはあった。
 暴走した影沼の中で、実弥の稀血を飲んだ時の感覚に似ている。
 しかしそれよりも強い視界の歪みに、胃袋の中からカッと燃え上がるような熱量。
 体の芯を保っていられずに、ふらついた。


「おっと。大丈夫?」

「っは…」


 息が上がる。
 体中を駆け巡るような熱が、内側の芯から燃やし尽くしてくるようだ。
 前のめりにふらつく体を支える童磨の腕に、反射的に縋り付いていた。


「な…に、これ…」

「胃袋に届けたから味はわからないよね。その血は稀血の中でも一級品。一人で通常の人間の千人分の価値がある血なんだぜ」

「せ…っ?」

「ただ希少価値が高まれば、その分俺達に与える影響も大きく変わってくる。酩酊(めいてい)させるような血もあれば、睡魔を起こすような血もある。"それ"は、体内から発熱を促すものなんだよ」


 優しく背を撫でていた童磨の手が、崩れた帯を掴む。
 それを下に引けば呆気なく細い肩から着崩れる布地が、肌を擦れただけでカッと熱は増した。


「ぁ…っ」


 思わず零れ落ちるか細い声は、まるで自分のものではないようだった。
 驚き食い縛る蛍に、にんまりと童磨が深い笑みを零す。

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