第22章 花いちもんめ✔
幾人もの人間の女を、遊びの延長線上で抱いてきた。
その中には、最期まで抗いを見せる女もいた。
しかし瞳の奥底に"死"への恐怖は大なり小なり混じっていて、その目を見る度に「嗚呼、哀れだなあ」と童磨は涙を流していた。
鬼とてそうだ。
相手が上弦の鬼だと知れば、畏怖するか媚びへつらってくるのが関の山。
しかし目の前の女はどうだ。
抱かれることに微塵も恐怖を感じていない。
生への危機感もなければ、また執着もない。
童磨が醜態に思えるものは何一つ見せず、身一つで言い放ったのだ。
「…わあ…」
それは童磨が今まで見たことのない、生き物の姿だった。
「いいね…素敵だね蛍ちゃん…!」
自然と上がる口角に、虹色の瞳がより一層輝きを増す。
「人間と暮らすことは別に反対してないんだ。俺だってそうだからね」
「…え…?」
「でも蛍ちゃんからは人間に所有されている匂いがする。だから気になったんだけど…なんだろう、今すごく体が高揚してる感じがする」
「……」
「俺も蛍ちゃんを所有したら、この感覚が何かわかるのかなあ?」
爛々と目を輝かせる童磨の反応は、蛍の予想をどれも越えていた。
予想外故にどう対処すればいいのか判断が出せず、警告音が脳内で鳴り響く。
この鬼は、まずい気がする。
「でもそんなことを言われると哀しくもなるね…俺は蛍ちゃんに気持ちよくなってもらいたいって、そう思ってたのに」
「は…?」
「交合(こうごう)はお互いが気持ちよくなる為のものだろう? 男だけなんて、そんな哀しいことはないよ」
呆気に取られていると、今度は太い眉を下げて哀しげに嘆いてきた。
「そうだ!」
「!?」
かと思えば、今度は何かを思い付いたように声を上げる。
ころころと変わる表情は、感情豊かと言えばそうだが何故か違和感を覚える。
戸惑う蛍を置き去りにしたまま、童磨は懐から小さな小瓶を取り出した。