第22章 花いちもんめ✔
どう反応をしていいものかと、蛍は口を噤んだ。
真っ先に思い浮かんだのは杏寿郎の顔だ。
しかしそれを童磨に悟られてしまうのは、いけない気配がする。
「ああ、気にはしてないよ。男の匂いを纏った女なんて、ごまんといる。この花街の女だってそうだ。選(よ)り好みはしているけれど、好き嫌いはしていない。男だって俺には美味そうな人間の味と変わらないから」
だけど、と声を静めて。
童磨は、じわりと汗を滲ませる細い首筋をじっと見つめた。
「蛍ちゃんが鬼だからかなあ。こんなに愛らしい鬼の娘(こ)が、誰とも知らない人間の男の匂いに縛られていると…こう、腹の底がぎゅって締まるような感じがする」
もう一度己の唇を舐め上げると、汗ばむ首筋にそっと息を吹きかけた。
ぴくりと震える些細な反応さえも、見逃さないようにと鮮やかな瞳を開いて。
「じゃあ次は、俺の番」
「番…?」
「蛍ちゃんの質問に答えてあげたからね。次は蛍ちゃんが答える番だよ」
「答えるって何を──」
「その男との関係は?」
ぴたりと蛍の口が止まった。
「蛍ちゃんは鬼なのに、なんでいつも人間の匂いをさせてるのかなあ。血の匂いはしないから、喰らって移った匂いじゃなさそうだ」
「……」
「なんで人間の男と一緒にいるの?」
「一緒に、なんて…」
「じゃあ男はいるんだね。やっぱり」
「っそういうの、揚げ足取りって言うんです…っ」
「えー。だって気になるんだから、仕方ないだろう?」
じんわりと肌に感じる冷や汗を吹き飛ばすように声を上げれば、童磨も緊張感のない顔で不満を漏らしてくる。
「いいよ、蛍ちゃんが答えてくれないなら。こっちに訊くから」
「っ?」
優しい口付けだった。
うなじの近く。細い首筋に当たる柔らかな唇に、蛍は息を呑んだ。
「ど、童磨…っ何、して」
「何って。男を知ってる蛍ちゃんなら、なんだかわかるよね」
「意図がわからないんだけど…っ?」
「やだなあ、忘れないでおくれよ。蛍ちゃんの体に訊くって言っただろう」