第22章 花いちもんめ✔
更には上弦の位の者だ。
自分がこうして相手の懐に捕らえられている間は、安易に杏寿郎達と鉢合わせる訳にもいかない。
華響の時とは訳が違う。
己を盾にされて杏寿郎達の足枷となってしまえば、勝機を掴めるかどうかも怪しい。
(どうにか情報だけ抜き出して、隙を見て逃げよう。早く杏寿郎達にこのことを知らせないと──)
童磨と話しているうちに、どうにも彼は神隠しのことを知らないようだと気付いた。
本能の赴くままに花街に足を運んで、偶然出くわしたのだろう。
となれば抜き出す情報は、無惨を取り巻くもののみに集中できる。
「童磨の住処…他の上弦の鬼様も、そんな住処を持ってるの?」
「うーん、どうだろう? 黒死牟(こくしぼう)殿は無惨様同様、所在が不明なことも多いし、猗窩座殿は放浪癖があるから、寝屋を持たない感じがするしなあ」
「(こくしぼう…他の上弦鬼の名前だ)…放浪癖って?」
「いつも自分の強さを磨き上げることに夢中で、鍛錬鍛錬ってそればっかりでさあ。俺に見向きもしてくれないんだぜ」
「え…でも、友人なんだよね?」
「勿論! 俺は唯一無二の友だと思っているし、それは猗窩座殿にも伝わっているはずだよ。照れ隠しというやつだな」
「へえ…上弦の鬼様にも色々性格があるんだね」
「何を言うんだい。蛍ちゃんだって俺達と同じ鬼だろう?」
「ぁ…うん」
こくりと頷く小さな頭を、よしよしと童磨の掌が撫でる。
「何故かなあ。蛍ちゃんと話していると仲間というより、人間と話しているような感覚になる」
「……」
「この匂い付けをした人間の所為なのかな?」
「っわ、私そんなに人間臭い?」
「うん?」
すん、と再び童磨の顔がうなじの匂いを嗅げば、逃れるように蛍が身を捩る。
「あんまり他の鬼と話したことがないから、わからないんだけど…目立つなら、気を付けるように、する」
「あははっ大丈夫だよ。多分これは俺だからかなあ」
「童磨だから?」
「俺は人間の女しか喰べないから、女特有の味や匂いが舌や鼻に染み込んでいてよくわかるんだ。そうでない匂いは」
牙の下から覗く長い舌が、薄い唇を舐めては濡らす。
「蛍ちゃんからは人間の匂いがするけど、よく知っている匂いじゃない。──男の匂いだ」