第22章 花いちもんめ✔
其処は花街の隅にぽつんと建つ、小さな神社だった。
小さな赤い鳥居の先に本殿はない。
賽銭箱と拝殿のみの簡素な造りをしている。
本来荒らしてはいけないその拝殿内に、悪びれた様子もなく蛍を連れて踏み込んだ童磨は「いけないことをしているみたいだね」と子供のように笑った。
「やっぱり人間の匂いがする。血の味がしそうな。蛍ちゃん、外にいるどの人間よりも美味しそうだ」
「私は…人間じゃ、ないよ」
絞り出すように吐き出す蛍の小さな抗いに、童磨も「そうだよね」と笑って頷く。
「でも腹が鳴るんだ。蛍ちゃんを前にすると。俺は俺のこの奇妙な感覚が知りたい。この街にいる女を全員喰ったって、それは満たされそうにない感じがする」
「っ喰べたら駄目」
「うん。喰べないよ。約束したからね」
くすんだ木目の床に座り込んだまま、やんわりと少女を後ろから囲うように抱き竦めた。
「蛍ちゃんが代わりに俺の相手をしてくれるなら、我慢する」
「相手って…お話、するだけって」
「うんうん。なんの話をしよう? 上弦の鬼のことかな? 無惨様のことも知りたがっていたみたいだし、俺の住処(すみか)に戻れば会う確率が」
「っ!」
「高いんだけど…それは嫌なんだね」
ぶんぶんと頸を必死に横に振る蛍からは、激しい拒絶が見て取れる。
「住処に戻るのも駄目で、花街の部屋を借りるのも駄目となると、こんな所しか腰を落ち着ける場所はなかったけど。まぁ人目を避けて遊ぶなんて久しぶりだし。案外愉しいね、こういうのも」
「…あんまり…」
「えー? そうなの?」
蛍を抱き上げたままあっさりその場を後にしようとした童磨なものだから、慌てて強い拒否を示した。
敵地を暴きはしたいが、連れ去られればただの人質と化してしまう。
花街の宿に入ってしまえば、それこそ"そんな遊び"を強制させられてしまう可能性もある。
柚霧として身を売っていたからこそ、重々蛍も危険性は理解していた。
相手は友好的に話しかけてくるも鬼は鬼。
そして男は男なのだ。