第6章 柱たちとお泊まり会✔
恐る恐る一歩ずつ祠へと足を進めていくと、パキリと足が小枝を踏み付ける。
パキリパキリと何度も鳴るそれに、煩わしさを覚えて地面を見れば、其処には枝など落ちていません。
「…?」
パキパキと音を立てていたのは、白い小さな粒のようなもの。
先程から聞こえていた足音と類似していた所為でしょうか。
気になった私は、足元に散らばるそれを一つ拾い上げてみました。
白い。だけど先は赤黒い。
半月のような形をしたそれがなんなのか、理解すると同時にぶわりと嫌な汗を掻きました。
それは人の爪でした。
「っ待て佐本!」
第六感とでも言いましょうか。
嫌な予感に咄嗟に佐本を止めましたが、同時に彼は祠に向けて刃を振るっていたのです。
斜めに一直線に亀裂が入った祠は、いとも簡単に斬り捨てられました。
あっという間に崩れ去る祠に、中に隠されていたものが姿を現す。
其処に、鬼はいませんでした。
「なんだこれ…?」
小さな空洞の中を覗いた佐本の表情が、途端に引き攣(つ)るのを見ました。
摘んでいた爪を投げ捨て同じく中を伺えば、其処には小さな木箱がぽつんと置いてあるだけ。
その木箱の中には、綿に包まれた黒い炭の塊のようなものが入っていました。
小さな塊は言わば…保管されたへその緒のような。
しかし佐本が表情を引き攣らせた理由がそれではないことは、すぐにわかりました。
祠の内側には、爪で引っ掻いたような傷跡がそこら中に付いていたからです。
周りに散らばっている赤黒い爪の切れ端も、それと繋がっているのでしょうか。
「おひぃだぁ」
唐突にそれは耳元を掠めました。
上手くは言い表せない、人の声と言っていいのかもわからない声でした。
言うなれば、赤子の泣き声を窄(すぼ)めたかのような謎の声。
ぞっと背筋を寒いものが走りました。
鬼ではない。
これは触れてはならないものだ。
そう直感した私は佐本の腕を掴み、気付けばその場から逃げ出していました。