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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



❉  ❉  ❉










「…童磨」

「うん」

「童磨」

「なんだい?」

「童磨…っ」

「聞こえてるよー」

「童磨ッ!?」

「わあ、そんなに俺の名前呼んでくれるなんて。蛍ちゃん、俺のこと大好きなんだねっ」

「じゃなくて! 何これどういう状況!?」

「どうって…うーん…"愉しい"ことをしてる最中かな?」

「私は楽しくないんだけど!」

「大丈夫、そのうち愉しくなってくるよ」

「その根拠のない自信はどこから…って変なところ触らないッ」

「蛍ちゃんの肌、本物の子供みたいに柔らかいね。あったかくてやわらかくって、美味しそうだなあ」

「話聞いてる!? 聞いてないね!」


 ばたばたと細い手足を振るう蛍を、軽々と膝上に乗せて背後から抱き込んだまま、童磨は始終楽しそうに笑っていた。

 にこにこと害のない笑みを浮かべてはいるが、逃がさないようにがっちりと片腕で蛍を抱き込んだまま、もう一方の手がするりと着物の隙間を滑り込んでくる。
 太腿を大きな掌に撫でられると、びくりと蛍は体を強張らせた。


「ちょ、本当…冗談じゃないから…っ」

「冗談? 俺は冗談でこんなことしないぜ。蛍ちゃんは花街の女の子で、俺はそれを拾った男だろう?」

「私がこういう格好をしてるのは理由があ」

「口枷の君かい?」

「ッ」


 耳元で吹き込まれるその名称に、蛍は反射的に口を噤んだ。


「ああ、口枷の君じゃあないね。だってその匂いはもうしない」


 虹色のように輝く二つの瞳を細めると、童磨は細い蛍のうなじに顔を埋めて吸い込んだ。


「代わりに別の匂いがする。それも凄く強く蛍ちゃんに染み付いている匂いだ」


 深く深く。
 少女の纏う匂いを吸い込みながら、はぁ、と憂いのような吐息をつく。


「匂い付けされてる感じ。君は誰かのものだって。その飾り立ても、誰かの為にしているんだよね?」

「っ…匂いなんて…人混みで、移っただけで…」

「だったら俺の腹はこんなにぐるぐる鳴らないんじゃないかなあ」


 人気のない湿気も僅かに感じる古びた建物内。
 僅かな光は目の前の襖の外から伝わってくる、煌びやかな通りの灯りのみ。
 その狭く小さな世界の中に、二人の鬼はいた。

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