第22章 花いちもんめ✔
「この時間帯は外に出るなって教えなかったかい? 神隠しにあっても知らないよッ」
「っごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
「洗濯なら土間でやんな!」
「「はぁーい」」
やはり神隠しはこの花街に浸透していた。
ぶつくさと文句を言いながら再び建物内へと入っていく女に、顔を見合わせた少女達がぽそぽそと歌い合う。
「しののめ姐さんはいーらない♪」
「あたいもーいーらない♪」
「ふふっ」
「くすくす」
水の入った桶を、二人でよいしょと持ち上げる。
女郎としてはまだ幼い少女達。
二人は、遊女見習いとしての禿に位置付けられる子供だった。
揃いのおかっぱ頭に、揃いの着物を着た姿はまるで双子のようにも見える。
(蛍ではなかったか…情報もなさそうだな)
しかしそれだけだ。
有益な情報は、神隠しにあっている実態だけだった。
致し方なしと、踵を返す。
再び煌びやかな人通りに戻る為に、杏寿郎は狭い路地裏を進んだ。
「あ。あたいもきーまった!」
「しののめ姐さん?」
「違うよぉ。えっとね…あお色おべべの女の子。頭に可愛いリボンを付けてるの。綺麗なこしらえだったなぁ」
「あっ異人さんに買われてた女の子?」
「そー!」
後ろから届く愛らしい少女達の声。
ぴたりと、杏寿郎の足が止まる。
「なんだっけ…えっと…」
「降参?」
「待って。異人さんが呼んでた名前でしょ。えっとぉ…確か…」
明確なものは何もない。
それでも後ろ髪を引かれるような思いだった。
振り返る杏寿郎の目線の先で、ぱっと顔を上げた少女が声を弾ませる。
「あ! わかった!」
その愛らしい笑顔を前に、何故か背筋に冷たいものが走った。
「ほたるちゃん!!」