第22章 花いちもんめ✔
一度上から捜してみるかと建物の屋根に跳んでもみたが、それでも目ぼしい姿はなかった。
最初は常に口角を上げて笑顔を浮かべていた杏寿郎だったが、徐々にそれも下がってくる。
「ううむ…(蛍のことだ、千寿郎のように面倒事に絡まれても身一つで撃退できるはず)」
証拠に、男に絡まれる度に逃げ出していたと、実際に天元も実況していた。
「自ら任務を放棄するはずもあるまい…」
それは何より考えられないことだ。
「一体何処に…」
難しい顔をしたまま、歩み出そうとした。
「──♪」
微かな声が届いのは、その時だ。
人混みの騒音に混じってはいたが、確かにそれは幼い子供の声だった。
(蛍?)
顔を向けた先は、明るい人通りの光が途切れた所。
その先へと、杏寿郎は歩みを進めた。
「勝ーって嬉しい、花いちもんめ♪」
「負けーて悔しい、花いちもんめ♪」
それは二つの歌声だった。
狭い路地裏を通り過ぎた裏庭。
煌びやかな表とは対象的に、ひっそりとした暗がりで衣類を洗濯板に擦り付けながら、洗い物をしている少女が二人。
歳は七、八歳と言ったところか。
千寿郎よりも幼く見える。
「あーの子ーがほーしい♪」
「あーの子ーじゃわーからん♪」
「相談しましょ♪」
「そうしましょ♪」
子供特有の幼い歌声は、音が外れていようとも愛らしく感じる。
きゃいきゃいと笑い合う二人の声に、杏寿郎もついじっと目を向けた。
「きーまった! えっとねえ…お琴が上手で、いろんな色のお手玉を持っていて、あたい達にも貸してくれる姐さん。が、欲ーしい♪」
「んんっとぉ…あ! わかった、かのえ姐さん!」
「正解!」
していることは水仕事だが、その時間も独自の遊びで楽しんでいるのだろう。
本来の花いちもんめとは違うものの、楽しげな人当て遊びに杏寿郎の気も緩む。
「こら! あんた達なに呑気に歌ってんだい!」
「ひゃあ!」
「しののめ姐さんッ!?」
その空気をがらりと変えたのは、裏の戸口から出てきた女だった。
姐さんと呼ばれるところ、そしてその身形から、夜の商売をしている女だとわかる。