第22章 花いちもんめ✔
「じゃあ千坊も早く着替えたいだろうし。俺と行くか」
「あ、はいっ兄上、すみません一足先に…」
「ああ、構わん。お前は役目をしっかり果たしたんだ。宇髄、千寿郎を頼む」
「了解。よっしお前もしっかり自分の足で歩けよ」
「お、俺はその子に何もしていませんよ…っ」
「体触っただろーが。それで未遂なんざ随分都合の良い頭だな?」
「ひ…っ」
「わ、私は大丈夫ですから。音柱様…っ」
「お前は任務遂行したんだ。後は自分のことだけ考えてろ」
「わ…っ」
ぐしりと一度頭を撫でて千寿郎を止めると、天元は引き摺るようにして男を連れていく。
「それにそもそもがそれとこれとは別問題なんだよ。お前には訊きたいことがある。とにかく歩け。千坊は俺から離れんなよ」
「は、はい。では、兄上」
「うむ。すぐに追いかける」
天元の圧にすっかり縮み上がった男は、大人しく引き摺られていく。
正体は未だ掴めていないが、その言動からしてまず鬼ではないし、頭や腕が立つようにも見えない。
杏寿郎の目からしても、天元の言う通り小物の男のように思えた。
(それは話を訊いてからだな)
それでも男が本当に神隠しに関与しているなら、逃がしてはならない相手だ。
小走りに天元へとついて行く千寿郎を見送った後、杏寿郎は人混みへと向きを変えた。
早く蛍を迎えに行って、それから男の聴取をしなければならない。
「看板の裏と言ったか…」
いくら幼い姿をしていても、中身は蛍である。
千寿郎にも護身術を教える側だ。大人の男相手に引けを取らないことは知っている。
疲れた足を休める為に、看板裏にでも身を潜めていたのだろう。
千寿郎と同じ高さの小さな頭を捜すように、杏寿郎は足早に西通りへ進んだ。
「──むう! いない!!」
しかし捜せど捜せど、市松模様のリボンを付けた頭は見つからない。
「蛍!」
看板という看板の裏手。
「此処か!?」
建物の陰。
「何処だ!!」
「きゃあ! 何すんだいあんた!!」
「すまない! 人を捜していた!!」
終いには人混みの足の間まで捜してみたが、やはり見つからない。