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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



「だが驚いた。大人相手に素手で立ち向かおうとするとは。身のこなしにも機転が利いていて無駄がなかった。日頃の鍛錬の賜物だな」

「! 本当…ですか?」

「ああ。兄としてとても誇りに思う!」


 にっこりと満面の笑みで頷く杏寿郎に、伝染するかのように千寿郎にも弾けるような笑顔が浮かぶ。


「さっきの動きは、姉上に教えて貰ったんです。女性や子供でも太刀打ちできる護身術をと」

「蛍が?」


 非力な立場となってしまう、女や子供。その目線の世界なら同じに知っているからと。
 笑って教えてくれた蛍のことを語れば、杏寿郎はぱちりと目を瞬いた。


「そうか。蛍が」

「おい煉獄。やっぱりこいつの所持品が該当品で良さそうだ」

「…うむ。ではその者から話を訊くとしよう」

「ああ。見たところ小物っぽいけどな」


 男から取り上げた小型カメラを手に、天元が二人へと呼びかける。
 もう片方の手で胸倉を掴まれた状態で、情けなくも爪先立ちにぷるぷると震える男が涙目に乞う。


「じ、自分は何も…ッただ写真を撮っていただけでっ」

「へえ? そりゃなんの為に」

「それ、は…」


 歯切り悪く応える男の目は、迷いがあるのか天元を真っ直ぐに見返せていない。
 後ろめたいことがあるから迷うのだと、訝し気に天元が上から覗き込んだ。


「宇髄。この場での聴取は人目につく。一先ず場所を変えよう」

「わぁったよ」


 止めたのは杏寿郎だった。
 尤もな意見に天元も仕方がないと、顔を退いて肩を竦める。


「んじゃ一先ず撤退するとしますかね」

「あの…」

「ん? なんだ千坊」

「姉…蛍さんは」

「ああ。あいつなら西通りの人混みの中にいたな。まだ看板の裏にでも隠れてるんじゃねぇのか。煉獄、蛍を連れ戻して来るからお前は男を」

「では俺が迎えに行こう! 宇髄はその男を頼む!」

「…あ、そ…」


 あっさりきっぱり責任転換で応える杏寿郎の勢いに、抗う気も起きずに溜息と共に返す。


(ま、煽ったのは俺だしな)


 あれだけやんやと蛍の状況を吹っ掛けていれば、気になって当然だろう。

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