第22章 花いちもんめ✔
めりめり、めきめき、ごきごきんっ
男の悲鳴と、杏寿郎の低い声に混じる圧力音は、凡そ普段耳にできるようなものではなかった。
「あ、兄上…」
「おーい煉獄ー。それ以上はそいつの肩が壊れんぞー」
「! 音柱様」
「よう、千坊。無事か? つっても自分で対処できてたみたいだけどよ」
いつの間にか当然のように千寿郎の隣に立っていた天元が、その小さな体を守るように一歩前に出る。
振り返る顔には、今までの千寿郎と男のやり取りを把握した余裕を残す笑みが浮かんでいた。
「対象物も見つけたみたいだし。よくやった」
「わ…っ」
くしゃりと、大きな掌が焔色の頭を撫でる。
杏寿郎に似ているようで違う体温と言葉の温かさに、ほんのりと千寿郎の頬が色付いた。
「ぁ…ありがとう、ございます」
やれるだけのことは、できただろうかと。
「すッずみまぜん…! その手を放じで下ざい…!」
「君が俺の話を聞けたら、だな。いいか。千寿郎は、俺の弟で、手出しすることは、許さない。その耳にしかと捻じ込めたか?」
「あだだだだッ!!」
「むぅ。やはり聞こえていないようだな!」
「煉獄、煉獄。それもう一種の苛め。やめてやれ」
爽やかな笑顔で青筋を浮かべる炎柱に、このままでは肩を砕かれ兼ねないと天元が場を治める。
ようやく男を解放した杏寿郎は、そわそわとこちらを伺う千寿郎へと顔を向けた。
「すまない千寿郎、遅れてしまった。不快な思いをしなかったか」
「大丈夫、です。ですが私一人で対処すべきだったところを、兄上の手を煩わせてしまって…」
「何を言う! これは千寿郎一人の任務ではない。俺や宇髄も共に遂行し合う仲間だ。寧ろ遠慮なく頼ってくれ!」
「は、はいっ」
小さな掌をぎゅっと強く杏寿郎の両手に握られ、ぴんと千寿郎の背筋が伸びる。
その頷きにほっと肩の力を抜くと、杏寿郎はやんわりと口角を緩めた。
先程男に向けていた笑顔とは全く異なる、優しい笑みだ。