第22章 花いちもんめ✔
「っ! 待──」
咄嗟に男の手が千寿郎の肩を掴む。
体格も力も相手の方が上だ。
しかし掴まれた方の腕を背中へと振り上げ、男の手首を脇へと挟み込むようにして再び下げると、そのまま細い腕で千寿郎は締め上げた。
「い…ッ」
手首を捻られバランスを崩す男の隙を突き、距離を取って身構える。
「いっつつ…可愛い顔して、やっぱり男の子だね…」
「っこの格好は訳があってしています。好んでしている訳では、ありません」
「そうなの?」
「ですので、その…貴方に、お応えはできません。ですがお持ちの物について訊きたいことがありますので、ご同行お願いできますか」
「え。じゃあその恰好、誰かに無理矢理やらされてるの?」
「そういう訳では…私が、自ら買って出たものなので…」
「えっもしかして誰かの為にやってるの? 本当は興味ないのにっ?」
「そ…それは…」
「え!? もしかしていやよいやよも好きのうち? そういう遊びが好きなのかな!?」
「あ、遊びなんかじゃ…!」
「いいなぁ! お兄さんもぜひ一緒に遊びたいなァ!」
「えぇえ…!?」
最初は顔の前で握っていた拳も、どんどんエスカレートする男に気圧され下がってしまう。
最初は戸惑うだけの顔は再び蒼白となり、最終的には真っ赤になって千寿郎は息を呑んだ。
(こ、この人、なんだか凄く関わったらいけない気がする…!)
ハァハァと息遣いが荒くなる男に、わたわたと顔を白くも赤くもさせて動揺する千寿郎。
「千寿郎」
その場の空気に終止符を打ったのは、低い声だった。
近寄る気配など微塵もなかった。
気付けば其処にある馴染んだ兄の姿に、今にも泣き出しそうな目を千寿郎が瞬く。
「兄上…!」
「兄上!? 兄弟もののごっこ遊びも美味しギッ!?」
ごりゅっ
不意に男の肩を後ろから掴んだ手が、不可解な音を立てて青筋を立てる。
「ごっこ遊びではなく、千寿郎は俺の弟なのだが?」
「い"だだだだッ!!」
「聞こえていないようだな。もう一度言おう。千寿郎は、俺の、弟なのだが?」
「か、肩ッ! 肩が捥げるァア!?」