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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 鬼の力であっても、見た目は線の細い女性なのに。
 杏寿郎と渡り合える程の力を持つ蛍に、蜜璃へと抱いた時のような強い憧れを向けた。

 早朝。
 久しぶりの列車での遠出にいそいそと早起きした千寿郎が見つけた光景が、それだった。

 道場から聞こえる物音に足を向ければ、慣らしのつもりか。手合わせをしている杏寿郎と蛍に出くわしたのだ。

 継子として鍛錬を積む蛍の姿を、千寿郎はその時初めて見た。
 次の攻撃へと移る予備動作もほぼない状態で、羽毛のように音もなく宙を舞うかと思えば、道場の床に穴を開けそうな程の力を叩き付けてくる。

 日輪刀を持たぬが故に集中的に体術を極めたのだと杏寿郎の説明を受けていた通り、蛍の柔軟な四肢全てが武器そのもののように見えた。

 形としての武器には頼らず、己の身一つで戦い抜く。
 蛍のその姿には、兄とはまた別の憧れを感じたのだ。





『千くん。大丈夫?』

『は、はい』

『緊張はするよね。うん。無理はしないで』

『無理は、していません。でも本当に、私に囮役が務まるか…心配で。任務のお手伝いができることは嬉しいんですが、兄上の足を引っ張らないか…』

『成程……よし。千くん、拳を握って』

『え?』

『折角だもん。お兄さんにも千くんができるところを見せてあげたいよね。というおまじない』

『おまじない…?』

『はい。拳を握る』

『あ。はい』

『その腕を交差させるように、胸の前で組む』

『こうですか?』

『そう。そして握った拳を下に向ける形で開いて──』





 色町へと繰り出す前。
 緊張でがちがちに固まっていた千寿郎に、蛍は"おまじない"を教えてくれた。

 互いに持っている能力は違えど、互いの持つ目線で見る世界はわかるからと。
 そう、笑って。


(拳を、握る)


 教えられたおまじないを、咄嗟に復唱する。
 男に握られたままの手で強く拳を握ると、腕で己を抱きしめるようにバッテン印に交差させた。

 次に掌を下に向けるように開くと、そのまま勢いよく振り払うように両腕を下げる。
 同時に尻を突き出し地を蹴ると、あんなにもがっちりと羽交い絞めにされていた腕の中から抜け出すことができたのだ。


(できた…!)

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