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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第3章 浮世にふたり












 その直後のことは、はっきりとは憶えていない。

 突如体の奥底から生まれた熱に突き動かされるように、体が動いた。
 意識は飛び飛びで、それでも唯一憶えているのは湧き出る程の"憎悪"。

 ほんのりと見えていただけの他人の"色"が、その時からはっきりと見えるようになった。
 気付けば残り香を追うように、男達のその"色"を追っていた。

 全く動かせなかったはずの手足が動く。
 膨張していたはずの細胞の腫れが退いていく。
 真っ暗な山道でも不思議と目が見えた。
 ひたすら走り続けても肺は潰れなかった。

 獣の足跡のように、点々と続く微かな"色"。
 それがはっきりと掴めるようになると、同時に血の匂いを感じた。

 鉄の錆び付いたような、嫌な臭いのはずだったのに。何故かその匂いに強く高揚した。

 男達を見つけたのは、それからすぐのこと。

 辿り着いたのは見知ったあばら家だった。
 だけど途切れ途切れの意識では、自分の家だなんて気付くこともない。
 ただ血の匂いに誘われるように、扉を蹴破り飛び込んだ。

 一層血の匂いが濃くなる。
 ぐる、と腹が鳴る。




『柚霧!?』

『なんでお前が…ッ』

『おい、なんでそいつが生きてる!?』




 男達の声が途切れ途切れに耳に届く。
 でも私の目は驚愕する彼らの足元に向いていた。

 色褪せた畳の上。
 一番隙間風が当たらない場所に、常に敷いていた姉さんの為の布団。
 其処には見慣れた着物の、見慣れた女性が伏せていた。

 血の匂いがする。
 吹いたばかりの、真新しい血の匂い。

 それは伏せたその人を中心に、じわじわと広がっていた。




『…蛍…ちゃ…?』




 全身の血を抜かれたような、死人の肌をした姉さんから。


















 その直後のことは、よく憶えていない。

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