第22章 花いちもんめ✔
男に声をかけるべきか。
杏寿郎に助けを求めるべきか。
後者の考えは、すぐに頸を横に振って頭から払い出した。
兄の力になりたいと思って此処へ来たというのに。
「あ…あのっ」
「ん?」
大きく深呼吸をすると、千寿郎は思い切って男の袖を掴んだ。
「む…無理矢理は、いけないと思います」
「……」
「その女性(ひと)も仕事があると言っていますし…」
「……」
「その…」
「……」
急な声かけに驚いたのか。
余りにも二人の目がまじまじと千寿郎を見てくる為、最初は意気込んでいた声も段々と尻窄みしてしまう。
また気味悪い外見だとでも思われたのだろうか。
それでも震える指先で袖を離すまいとしている千寿郎に、男はカメラを徐に懐へとしまい込んだ。
「君、男の子?」
「え…あッ」
指摘されてようやく、二人が何故千寿郎を驚き見ていたのかがわかった。
声変わりが始まったのは最近だ。
鍛錬をどんなに続けても兄のような男に近付けないもどかしさもあり、声色が落ち着いたものへと変わりゆく様は素直に嬉しかった。
少しでも、自分も逞しく見えていけるだろうかと。
それが裏目に出ようとは。
(しまった!)
焦る余り、天元の指示を忘れてしまっていた。
己の未熟さと女装していることがバレてしまった羞恥に、カァっと千寿郎の顔が真っ赤に染まる。
「ほな、わっちはこれで」
好機と踏んだのか、女がそそくさとその場を去り行く。
男と二人残されて、千寿郎は更に内心慌てた。
本来ならここで自分がおぼこと偽り、囮となって男を人気のない所へ誘い出す算段だった。
これではただの女装男子として、変人と思われ終わるだけだ。
(ど、どうし)
「君、名前は?」
「…え?」
それでも離せなかった袖を掴む手を、徐に握られた。
「可愛く着飾っているけど、その髪も作り物なのかな。綺麗な色だね」
「え…ぁ、あの…」
何故自分は手を握られているのか。
何故男とわかって優しく声をかけてくるのか。
何故異色な髪を綺麗だと褒めてくるのか。
男の反応のどれもが予想外のもので、咄嗟に反応ができない。
おどおどと返すことしかできない千寿郎に、男が笑う。
「いいね、君。今まで出会った子の中で一番好みだ」