第22章 花いちもんめ✔
「無惨様の捜している人間が、市松模様の羽織を着ているらしいんだ。だからつい声をかけてしまったけど、まさか蛍ちゃんだったとは。無惨様と同じで擬態が得意なんだねえ」
「市松模様の羽織…」
「そうそう。鬼狩りの子供だって話だ。そうだ、蛍ちゃんは鬼狩りって知ってるかい? 俺達鬼を殺すことだけを生業(なりわい)にしている連中さ」
「…知らない」
「そっかあ。なら、出会った時は気を付けた方がいい。無惨様や俺なんかは必要ないけど。蛍ちゃんみたいな可愛らしい鬼は、すぐ狙われるだろうからね」
市松模様の羽織を着た子供の鬼狩り。
その単語を並べてすんなりと蛍の頭に浮かんだのは、炭治郎の姿だった。
一度も現鬼殺隊の前に姿を現さなかった無惨が、炭治郎の前にはその素顔を晒したという。
自分の顔を知られたが為に殺そうとしているのだろう。
握った掌の内側に冷や汗を掻きながら、蛍は自分の知っている鬼殺隊の情報を漏らさないようにと口数少なめに耳を傾けた。
鬼と鬼殺隊は早々、相容れなどしない。
何度もこの目で見たからこそ知っている。
蛍の前では優しく朗らかに笑う童磨も、人間を前にすると餌としか見ないように。
「その…無惨様とは、どこでお話したの?」
しかしこれは逆手に取れば絶好の機会だ。
無惨の名前を自ら口にする鬼は今までいなかった。
それだけ童磨と無惨の距離が近しいのならば。長年鬼殺隊が追い求めても見つけられなかった、その元凶の居場所を割り出せるかもしれない。
ゆっくりと言葉を選ぶように問いかける蛍に、ぱっと童磨の目が輝いた。
「凄いね蛍ちゃん! 無惨様の呪いに抗えたんだ! 見た目通りの愛らしい鬼とばかり思っていたから驚いたよ。強いんだねっ」
「ぇ…っあ、うん…?」
無惨の名を口にできるということは、名前の呪縛から逃れていることの証拠に他ならない。
安易に無惨の名を口にすべきではなかったか。
一瞬焦りはしたが、凄い凄いと子供のようにはしゃぐ童磨に疑うような様子はない。
ほっと一先ず、胸を撫で下ろした。