第22章 花いちもんめ✔
「うん。どこからどう見ても可愛らしいお嬢さんだよ」
にっこりと笑う童磨の反応は、取り繕っているようには見えない。
思いもかけず、思いもかけない相手から称賛の言葉を貰い、蛍は唇を結ぶと俯いた。
素直に嬉しいと感じたからだ。
「うん。可愛い可愛い♪」
「…それはあんまり嬉しくないかな…」
そんな蛍の反応に、小さな子供を愛でるように童磨の手がよしよしと背を撫でる。
連呼されると言葉も浅く感じるというもの。
俯いていた顔を上げる蛍の目に、それはそれは嬉しそうに笑う童磨が映り込んだ。
「そうかい? 俺はとっても嬉しいんだけどなあ。だって蛍ちゃんの声をようやく聴けたんだ」
「…ぁ…」
「口枷、外してもらえたみたいだね。よかった」
こうも素直に自由を喜ばれると拍子抜けてしまう。
前回は童磨の持つ奇妙な感覚につい逃げ出してしまったが、はっきりと言葉を交わせば、悪い鬼ではないのかもしれない。
(いきなり呼び捨てにしてしまったのに、全く怒る気配はないし…そういう性格なのかな)
妓夫太郎と堕姫の冷たい態度を前にしても、下がり気味の眉を一切上げなかった鬼だ。
「童磨…さん」
「え?」
「その、いきなり呼び捨てにしてごめんなさい」
「いいんだよ、そんなこと。俺の名前を憶えていてもらえただけ嬉しかったし。童磨でいいよ、蛍ちゃん」
言葉を交わすというのは、知識を得た生き物にだけ許されたコミュニケーションの一つだ。
初詣の時はできなかった意思疎通を試みるように、恐る恐ると蛍は話しかけた。
「なら…童磨、」
「うん」
「童磨は、なんでここに?」
「可愛い女の子を捜しに来たんだよ」
「おんなのこ…?」
「花街には綺麗な女が多いだろう? 俺好みの子はいるかなぁって。そしたらこんなに愛らしい女の子を見つけてしまった。気に入っていた餌場は妓夫太郎達のものになってしまってとても残念だったけど、他の花街にも足を向けた甲斐があったというものだよ」
"餌場"という言葉につい唇を結んでしまう。
そんな蛍を気にした様子もなく、童磨は笑い続けた。