第22章 花いちもんめ✔
背の高い男だった。
190cm近くある背丈は、より上背のある天元で見慣れていた為、余り驚かなかった。
それよりも驚いたのは、その顔だ。
太い下がり眉。
目尻の柔らかな瞳。
血の気が退いたような青白い肌。
右へ左へと流れる髪の癖は強く、日本人には見慣れない鮮やかな白橡色(しろつるばみいろ)。
一度見たら忘れない風貌の男は、初めて会った時も蛍に強烈な印象を与えてきた。
優しい物腰の下から這うように伝わってくる、独特な気配。
その名は、
「どう、ま」
初詣に出会った、かの鬼だ。
「え? なんで俺の名前……あれ」
広げた扇子で口元を隠し、頸を傾げていた男の目が止まる。
蛍と同じように丸くすると、口元からゆっくりと扇子を下げた。
「…ほたる…ちゃん…?」
半信半疑。
そんな気配を纏い呟く名前に、蛍はぴくりと僅かに顔を強張らせた。
途端に、童磨の目が子供のように輝く。
「わあッ! 本当に蛍ちゃんだ! まさかこんな所で会えるなんて…!」
「わ…っ」
「嬉しいなあッ」
ぱちんと扇子を閉じると、長い手が伸びて瞬く間に蛍の脇を掬い上げた。
軽々と片腕に座らせるように抱き上げる童磨に、急に高くなる視線と不安定な体に蛍は反射的に腕へとしがみ付く。
「俺のこと憶えてくれていたんだねえ。俺も蛍ちゃんのことは一時も忘れたことがないよ。頭の中を弄らなくても、すんなり思い出せるんだ。これって運命だと思わない?」
「(頭を弄る?)わ、わかったから、下ろして。人に見られる…っ」
「大丈夫だよ。ここ花街なら、男が女を抱いてる姿なんて何処にでもある」
「っ」
「あ。赤くなった! 可愛いねえ、蛍ちゃん。そうしてると本当に小さな女の子みたいだ」
「そんなこ…っ…本当に?」
「うん?」
「本当に、生娘っぽく見える?」
思わず抵抗を止めて訊いてしまったのは、正に今、気にしていた事柄だったからだ。