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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 月房屋でも同じようなことはあった。
 これから人気を集めたい期待の新人を水揚げさせる時は、店自ら宣伝を広めるのだ。

 それこそ噂となるように。

 もしも今、明確に噂が立っている"生娘のような若い女"に、それと同じ狙いがあれば。


(待って。考えろ、私)


 何か糸口が掴めそうな感覚に、蛍はその場で必死に頭を回した。
 あと少しで、見えなかった答えが見つかりそうな気がする。


(身売り屋が噂を立てるのは、その女郎を宣伝するため。要するに色んな人に広める為だ。興味を持って貰えるように。…でもその相手が、客ではなく被害者となる住人達だったら…広めるのは逆効果でしかない。だって神隠しに合うのが若い少女だとわかったら、普通なら表に出さず隠すはず──)


 はっと蛍の目が目の前の人混みに向く。
 其処に既に、答えはあった。


(だからさっきから子供がいないんだ)


 周りを見ても、出歩いているのは大人ばかり。
 若い女の姿も見受けるが、千寿郎のような年頃の初々しさの残る少女はとんといない。


「道理で…さっきから変に声をかけられてたんだ…」


 目が合う度に男達が蛍を誘おうとしていたのは、同じ年頃の少女が他にはいなかったからだ。
 本当に幼女趣味だったとしても、他に少女いなければ一人に集中してしまうのも納得がいく。

 他に該当するのは、蛍とは違い町娘のような幼さを残す千寿郎だけなのだから。


「…待てよ(じゃあ。もしこれが意図的に作り出されたものだとすれば)」


 蛍の目の前で行き交う女達は、その多くが何処かの店の女将か、はたまた色町に染まった女郎か。
 誰もが幼さなど持ち合わせていない、色香や美貌を持つ者ばかりだ。

 火のない所に煙は立たぬ、と言う。

 今この場の景色の結果が、本当に風の噂である神隠しが原因であるとしたら。


 その噂を流した者の、本当の狙いは。




「…生娘じゃない」




 それとは真逆の、男を知る女達だ。










「やあ、そこの君」










 不意に声をかけられた。
 穏やかでありながら、不思議と耳に残る声。

 巡る思考を中断され、誘われるように振り返った蛍は、幼い団栗眼を大きく見開いた。


「──え」

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