第22章 花いちもんめ✔
(初心(うぶ)っぽくすればいいんだよね。つまりは)
よしと頷いて看板の後ろからひょこりと顔を覗かせる。
此処へ通う男達は抱ける女を捜している。
そんな期待など感じさせない程、幼く見えてしまえばいいのだ。
女郎を演じ切れたのならば、幼子だって演じ切れるはず。
深呼吸を一つすると、蛍は裏手から踏み出した。
(幼く…幼く…うーん…拙(つたな)い喋り方とか…子供っぽい動作とか?)
日頃鍛錬を積んでいる千寿郎は、体の線は細いが足腰のしっかりした動きをしている。
それでは参考にならないと、頸を横に振った。
「そうだ、すみちゃん達なら」
はたと思い出したのは蝶屋敷の三人娘だ。
愛らしさは十分あれど、色気などとは程遠い。
泣く子も黙るおっかな柱である不死川実弥をも、優しさの塊に変えることができる子供達だ。
あれを見習おうと頷きながら、ふと蛍はそのまま頸を傾げた。
(大体なんで生娘を囮になんてなったんだっけ?)
天元が"おぼこ作戦"など思い付かなければ、こんな苦労はしなかった。
しかし天元がそこに目を付けたのも、東屋が"若い娘がよく声をかけられる"という情報を流したからだ。
『おぼこ作戦…そうさなぁ。確かに、年端もいかない子が声をかけられることが多かったとか…』
『それだ! よっし、千坊お前の出番だぞ』
『えっ?』
『千くん?』
『何をする気だ宇髄!!』
読みは当たっていたと意気込む天元の勢いに流されるまま、その後千寿郎と共に飾り立てられた。
「…あれ」
ふと疑問が湧く。
神隠しのような曖昧な現象故に、行方不明者もはっきりしていない。
なのに何故、声をかけられるのは年端もいかない若い女だとわかっていたのか。
(そもそも、それが可笑しいんじゃ…)
千寿郎も東屋も風の噂と言いはしたが、一体その噂の出所は誰なのか。
最初に口にした者がいなければ噂など広まらない。
その最初の者は、何をもって若い娘だと断定したのか。
若い女が狙われている、という理由以外は全てが不確定な情報だ。
つまりは、それだけがはっきりしているという事実。
「…もしかして…」
人混みの中を歩いていた蛍の足が、唐突に止まった。
(……わざ、と?)