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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



「大体、女の悩みなんて早々尽きねぇもんさ」

「む? 宇髄もそうなのか?」

「三人もいれば、まぁそれなりにな。…と、そうこうしてるうちに夜も更けたな」 

「ああ。蛍も動き出す頃だ」

「同時にこの街も起きる時間だ。こっからは人混みも増えるし視界も一層悪くなる。蛍と千坊に絡む奴以外にも、変な輩がいないか見落とすんじゃねぇぞ。煉獄」

「うむ!」


 夕闇が空を覆い尽くすと、より色町の灯りは華やかなものとなる。
 比例するように光が届かない路地裏や建物の一角は、より一層闇を抱える。

 光と影の織り成す世界に惑わされることなきよう、息を殺して見下ろした。




















「やぁ、そこのお嬢ちゃん」

「こんな所に一人で何してるのかなぁ?」

「迷子かい? よかったらおじさんと一緒に」


「結構です!」


 何度目となるかもわからない男の誘いを一蹴して、蛍は足早に追い抜いた。

 いざ夜の色町に繰り出せば、あれよあれよと男達に声をかけられる。
 そのどれもが優しさを装いながら、体目当てのものだと一目で理解できるものだった。


(世間ってこんなに幼女趣味多かったっけ?)


 月房屋で人気のあった女郎を思い出せば、幼い少女より色香の強い美女が多かった。
 何故まともに化粧もしていない十二歳程の自分が見初められるのか。





『なんつーか、着飾れば着飾る程お前は色気出てくるんだよな』





 生娘に化ける蛍を見て、放った天元の言葉。
 まさかそれが原因なのかと、蛍は見つけた看板の裏手で足を止めた。

 自分に生粋の色気があるなどとは思っていない。
 ただし女郎としての魅せ方は体に叩き込んできた。
 もしそれが体に染み付いてしまっているものならば、仕方のないことかもしれない。


「…ううんっ」


 一人であれば、そう片付けていただろう。
 しかし今は一人ではない。
 家族になりたいと願った幼い少年が、同じに体を張って任務に協力しているのだ。


(私もしっかり役目を果たさないと)


 千寿郎より役立たずだと思われれば、天元に笑いのネタにされるのは目に見えている。
 それだけは願い下げだ。

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