第22章 花いちもんめ✔
「言う割には集中し切れてねぇな。大方こっちが気になるか?」
「心配はしていない。蛍の実力は知っている。例え体が幼くとも、其処らの男に伸されるような者ではない」
「随分信頼しているようで」
「無論だ」
ふぅん、と呟く天元の肩には一匹の忍鼠。
チュウチュウと鳴く度に頷きながら、切れ長の目が空色のリボンを観察する。
「千坊に姉上なんて呼ばせているところ、派手に思い切ったことをしたみたいだが。まさかあの気難しい元炎柱サンの許しまで得られたのか?」
「…蛍を娶りたいことは告げた」
「! まじか。本気で思い切ったなオイ」
「だが鬼であることは告げていない」
「…へえ?」
「無論、いつかは話すつもりだ。今は折り合いを見ているところだな」
「折り合い、ねぇ……ならお前も、その折り合いとやらを見計らってんのか?」
「? なんの話だ」
「何って。此処へ来たのは蛍の為だろ。与助って男を捜してんのも、変に義理立てるように蛍と距離感保ってんのも」
「……」
「お松との会話を聞かなくても大方のことはわかる。蛍は此処で柚霧として暮らしていた。虐殺って話も、ありゃ蛍が鬼化した時の話だろ?」
「……」
「俺でこれなら、お前は大方色んなことも察してんだろ。既に片足は蛍ん中に突っ込んでる状態だ。そしてお前ならそれが許される。なのになんで地味に今更、あいつの顔色伺ってんだよ。らしくねぇな」
「…らしくないか?」
「俺の兄弟間の話を聞いてもさっぱりした顔で突っ込んできたお前の割には」
「…そうだな…だがそれは君だからだ。俺は三人もの奥方を持った経験はないからな。こういう時、何をどうすれば正解なのかわからない」
「嫌味ったらしいな」
「わははっそう聞こえたか? ならばすまない!」
快活な笑い声に、色町だけを見下ろしていた天元の目が隣へと向く。
耳に煩い程に馴染んだ笑い声を、久々に聞いた気がした。