第6章 柱たちとお泊まり会✔
四番手 ❉ 胡蝶 しのぶ
「怖いかどうかはわかりませんが、私の話もとある隊士から聞いたものです」
「では実体験だな! 俺と同じだ!」
「お前はもう黙ってろ煉獄」
「題名をつけるとすれば…そうですね」
蝋燭の炎を前にした胡蝶しのぶの口元が、ゆっくりと弧を描く。
黒い影を肌に伸ばしながら、そっとその名を吐息のように吐いた。
「──"赤子"」
これは鬼殺隊となり、一隊士として幾度かの任務をこなし始めた頃の話です。
その日の任務は、気心の知れた同期との二人体制の任務でした。
同期の名前は佐本。
言動は何かと軽くも、背中を預けるには申し分ない男でした。
一匹の鬼の情報を聞きつけ、滅し終えた頃にはとっぷりと日も暮れた山中。
近くに人里などはなく、一先ず平地に出ようと山を下りることとなりました。
道標のない山道を歩き続けること四半刻程。
先に異変に気付いたのは、私の方でした。
「なぁ、佐本」
「なんだ?」
「お前は目が良かったよな。暗闇でも、鬼を確認できるか?」
「不可能じゃないと思うが。どうした、急に」
「気の所為かもわからんがな……音がする」
「音?」
真夜中の山中は、昼間に比べればうんと静かです。
微かな虫の音しか聞こえない中で、その音は私の耳に届きました。
山道を下る微かな私達の足音に続いて、パキリパキリと小枝を踏むような音。
カサカサと葉を揺らすような音も続くのは、西側から。
山道を登る時には通って来なかった道。
新たな鬼の出現かと身構えました。
音と聞いても佐本は把握していないようで、訝しげな表情のまま。
日輪刀の柄に手を置いたまま目線で音の方へと合図を送るも、しかし佐本の目は何も捉えられなかったようで無言で頸を振られました。
「ただの獣だろ。気にするな」
確かにその可能性は高いと、佐本に従い再び山を下りることとなりました。
しかし私達が足を進めれば、同じく小枝や葉を踏む音は後をついてくる。
私達が足を止めれば、ぴたりと同じく音も止む。
どう考えても可笑しな音です。
それが知識を得た鬼である可能性は、十分に高い。