第6章 柱たちとお泊まり会✔
「何を言ってる。これは片栗粉なんかじゃない」
珍しい顔だとまじまじ見ていたら、更に目の前に突き付けられた。
小瓶の裏に貼られた名札を。
そこに書かれてあったものは、
「…研磨、洗剤…?」
凡そ人体に入れるものではなかった。
「──以上だ!」
ようやく出せるとばかりに、張った声で蝋燭の炎を消す。
ふっと暗さを増す空間の中で、皆の目は杏寿郎に釘付…いや待って。
「以上だ! じゃねぇよ! その先は!? 弟はどうなったんだよオイ!」
「まさか…殺ったのか」
「研磨材洗剤程度なら、人を殺生はできませんよ伊黒さん。ただ量によっては、肺炎を起こす可能性もありますが」
「た、大変だわ…っ」
確かに怖い話だ、怖い話だけど!
系統が違う。別の意味でゾッとする。
同じに慌てる柱達に、当の杏寿郎はハツラツと笑ったまま。
「問題無い! すぐに千寿郎の下へ駆け付け止めさせた。口に入れようとしていた直前だったが!」
「問題なくねーよ…病気の餓鬼にそんな劇薬食べさせたらコロッと逝っちまうかもしれないだろーが…」
「間一髪でしたねぇ」
「うむ! 父も慌てていて、珍しいものを見れたものだと思った。千寿郎の心配をしてくれたのだな!」
「きょうじゅろう、おとうとがいたんだ…」
「ああ、彩千代少女には話したことがなかったな。唯一無二の兄弟だ」
長男で兄なんだ、杏寿郎。
道理で、面倒見も良いはずだ。
でもとにかく弟くんが無事でほっとした。
杏寿郎曰く、柱として長く家を空けていた間に洗剤用の瓶が変わっていただとか。
台所用洗剤なら置かれてあっても不思議はないし、見間違いもよくある話だけど…自分の立場に置き換えると末恐ろしい。
今まで聞いた中で、一番怖い話だったかもしれない。
「つーかなんだこれ。全然怪談になってねぇだろ」
「俺にはこの世で一番怖い話だぞ」
「そうだろーけど、怪談じゃねぇからな。お前の失態談だそれは」
不満を述べる天元を余所に、私は内心ほっとしていた。
これなら下手に構えなくても怖がることはなさそう。
恐怖の不死川おはぎという罰則も、受けなくていいかも…。
「では次は、私がお話しましょうか」
す、と手を挙げる。
静かなその声は、胡蝶しのぶのものだった。