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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 指摘は尤もだと渋々とも納得する蛍に、さて。と天元が仕切り直す。


「やっぱ千坊はおぼこに化ける才能があったな。その派手な髪も目を惹くし、恰好の餌になりそうだ」

「だから俺は納得いかないと…」

「ぁ…兄上、」

「千寿郎?」

「これが鬼殺隊としてのお仕事なら…私もお役に立てることを、したいです」


 未だ不満を漏らす杏寿郎を止めたのは、細々とした声ながら真っ直ぐに視線を向けてくる千寿郎自身だった。


「言うねぇ。流石、煉獄男子だな。いっちょ前に覚悟がある」

「むぅ…」

「標的はまだ鬼と決まった訳でもねぇんだし。これくらいの捜索なら剣士じゃない隠にだってやらせるだろ? 弟の心意気くらい汲んでやれよ、兄上」

「君に兄上と呼ばれると何故か癪に触るな」

「ひっで」


 剣士としての道を絶たれても、諦めずに稽古を続けている千寿郎の姿は、誰よりも傍で見てきたのだ。
 その気持ちも、誰よりも傍で汲んできた。
 だからこそそれ以上強く止めることはできず、杏寿郎は諦めと共に肩を下げた。


「ならば約束しろ、千寿郎。必ず無理はしないと。危険を感じれば、すぐに俺や周りの者を頼るように」

「はい。心得ておりますっ」


 ぱっと花が咲くように笑顔で頷く千寿郎の喜び様には苦笑しかできなかった。
 柱の働きに己が加担できることが、何より嬉しいのだろう。


「うし。じゃあ時間も頃合いだ。そろそろ出るか」

「待って頃合いって、まだ夕方だけど?」

「先に千坊を泳がせる。所謂撒き餌だな。蛍は陽が落ちたら出番だ」


 窓の外に広がる空は茜色(あかねいろ)。
 涼しさを感じる秋の夕暮れは夏場に比べ、瞬く間に夜を舞い込むようになった。


「それまで精々、生娘らしさでも習得しとくんだな」


 出番はすぐだと、空色のリボンをぴんと指先で弾いて揺らし、天元は笑った。











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