第22章 花いちもんめ✔
「違うぞ蛍、玉というのは滑らかで澄み切ったという意味でも」
「いいのどうせつるぺただもん…子供だしいいの」
「しかし」
「あんた達、本当に何処にいても騒がしいね」
「もぎゅっ」
「う、宇髄っ?」
唐突に襖を開けて顔を覗かせたのは、部屋を貸し出していた松風だった。
途端に天元は近場にあった杏寿郎の羽織を引っ掴み、蛍の頭から被せて背中に回し込む。
つられて杏寿郎の体もずりり、と引き摺られた。
「いつまでも部屋は貸せないんだ、用意くらい早く済ませとくれ…って何してんだい」
「いや悪いな、着物まで借りちまってよ。用意ならもう済んだ」
「だといいけど…随分とまあ化けたじゃないか。その形(なり)じゃとても男には見えないね」
じろじろと向けられる松風の視線に、千寿郎が恥ずかし気に俯く。
なんともまぁ初々しい様が生娘のようだと笑って、松風は背を向けた。
「此処も本場は夜の店なんでね。あたいらの邪魔をしなけりゃ問題ないよ」
「うむ! 場所と道具の提供、感謝する松風殿!」
「お松でいいよ。此処では"そう"通ってんだ」
部屋を去る際に、杏寿郎と天元の立つ隙間を縫うようにちらりと視線を流して。
「あんたも随分と奇特な仕事やってんだねぇ。柚霧」
溜息と共に投げかけると、足早にその場を後にした。
「ふぅ…危ねぇ危ねぇ」
「ぷはっ! い、息詰まるかと…っ急に何っ」
天元の手元が緩めば、羽織から顔を出した蛍が息も絶え絶えに抗議する。
「何ってお前、そんな姿であいつの前に出たら面倒だろ。自分が鬼だって一から説明すんのかよ」
松風に鬼殺隊のことは話していない。
ただ、不可解な事件を追っているとだけ伝えた天元に、松風も深くは突っ込まなかった。
花街自体、問題を抱えた者も多く在籍する。
厄介事に無暗に顔を突っ込まないが吉とは、此処では合言葉のようなものだ。
それを好機と利用する天元の立ち回り方は、批判できるものではない。