第22章 花いちもんめ✔
「へえ…お前、ちっこい煉獄みたいだな」
「えっ」
天元もまた、目を見張り千寿郎を見下ろす。
自分の腹部程にくる小さな頭は、片手で簡単に捻り潰してしまえそうだ。
日輪刀も握れない腕は細く、声もか細い。
中身は杏寿郎とは似ても似つかないはずだ。
そんな矮小な存在に見えるのに、見上げてくる瞳は一切の曇りがない。
強い信念を感じさせる瞳は、出会ったばかりの杏寿郎を思い起こさせた。
「兄上…みたい…」
天元の言葉を復唱する千寿郎の顔が、ぽぽぽと赤くなる。
素直に嬉しさを感じているのだろう。褒めるつもりで言った訳でもないのに、ぴょこりと髪の尾を振るように揺らす少年の姿に、なんだか胸の内がむず痒くなった。
「……」
「わっ?」
「宇髄っ? 何を…っ」
「いやあ、似てるかと思ったけどやっぱ違うな。煉獄はこんな可愛げねぇわ」
思わず小さな頭を鷲掴んだ。
潰す為ではなく、わしゃわしゃと掻き撫でる為に。
「あ、あの…っ」
「なんつーか、毒気抜かれる感じ」
まるで無垢な小動物に絆されているような気分だ。
「お前本当に煉獄の弟か?」
「本当に俺の弟だ。だからちょっかいは出さないで欲しい!」
「おっ」
ぐいと天元の手を押し退ける杏寿郎の顔は、口角は上がっていたが目は笑っていない。
ようやく見知った顔が戻ってきたと、自然と天元の口角も上がる。
「噂に違わぬ、可愛くて大事な弟って訳だ」
「ぁ…兄上が、そんなことを?」
「おうよ。訊きたいか、千坊。こいつの弟自慢」
「宇髄ッ」
「間違ったことは言ってねぇだろ」
そわそわと期待も混じる大きな千寿郎の目を見返して、咎める杏寿郎などお構いなしに笑う。
成程、構いたくなる弟だと納得した。