第22章 花いちもんめ✔
"虐殺"という言葉を松風は口にした。
それがどう蛍と関わっているのか気になりもしたが、殺しが関与しているのなら花街の鬼へと辿り着く鍵となるかもしれない。
些細なことが、思いもかけない形で情報源となることもある。
身をもって知っているからこそ、天元は蛍の過去にも興味を抱いた。
(柚霧、か…)
──はずだ。
「しっかし、それこそ他人の敷居を跨ぐどころか踏み付けるか踏み外すかの二択だった煉獄が、随分優しいことを言うようになったじゃねぇの」
よいせ、と腰を上げて、未だに隣で笑顔を見せない炎柱へと目を向ける。
蛍絡みとなると冷たさも増すが、知らない顔も見せてくる。
だからつい突っ込みたくもなるのだと天元は笑った。
「優しいっつーか、甘いっつーか。いつものお前ならあそこで席を外したりなんてしなかっただろ。殺しが関わる情報なら、鬼に繋がる可能性もある」
「…あの情報なら既に把握している。今更俺が聞くべき話ではない」
「へえ。蛍の心を土足で踏み荒らさない為に?」
「……」
「派手に潔さのあったお前が、随分地味な男になったなあ。煉獄よ」
にやにやとからかいを見せる天元の顔に、杏寿郎の太い眉が僅かにひそめられる。
柱と柱。互いに圧のある者同士。
おいそれと割り込めないその間に、踏み出した小さな足があった。
「そ…それ以上、兄上に不躾な言葉を向けるのはお止め頂けませんか…音柱様」
「お。」
「…千寿郎?」
幼い少年が、自信なさげに眉を下げながらも兄の前に立つ。
千寿郎だった。
「兄上には、兄上の考えがあり、蛍さんと向き合っているんです」
震える声で、辿々しくも思いを伝える。
「兄上が蛍さんの心を踏み荒らすことを咎めるのなら、私は、兄上の心を踏み荒らされることを黙って見ていられません。…お止め、ください」
自分の後ろばかり追いかけていたはずの弟の背中を見つめて、杏寿郎は静かに驚いた。
いつから、こんなにも大きくなったのだろうか。