第6章 柱たちとお泊まり会✔
急いで千寿郎の下へと運べば、赤い顔でふぅふぅと息をしながら眠ってしまっていた。
わざわざ起こす訳にもいかず、枕元に粥の乗せた盆を置く。
そのうち匂いに誘われて目を覚ますかもしれない。
空っぽの胃袋に早く何か入れさせてやりたいが、無理に起こすのも忍びない。
「早く元気になれ。千寿郎」
この広い家には、千寿郎と父上の二人だけ。
家族に冷たくなってしまった父を弟に押し付けるようで後ろめたさもあったが、それでも千寿郎は笑顔で送り出してくれた。
代々煉獄家に続く"炎の呼吸"の正当な柱となった俺が誇りだと言ってくれた。
そんな千寿郎の為にも、俺は強く立派な柱でいなければいけない。
だが…この家に帰ってきた時だけは、ただの兄でいたい。
千寿郎ただ一人の。
「…すぐ戻るからな」
ずっと傍についていてやりたかったが荷解きも終えていない。
千寿郎が寝ている間に、小さな手間は片付けてしまおうと部屋を後にした。
そういえば台所も散らかしたままだったと思い出し、そちらへ先に向かう。
「む?」
其処には先客がいた。
いつも布団の上で横になった背中ばかり見ていた、あの
「…父上?」
父、槇寿郎(しんじゅろう)の姿だった。
思わず名を呼べば、振り返るその手には俺が粥作りに使用した小鍋が握ってあった。
まさか…千寿郎の為に粥を作りに来たのだろうか?
思いも掛けない父の行動に驚いたが、同時に嬉しくも感じた。
父上は俺達息子を見放した訳ではない。
子を思う心は、変わらず持っていてくれたのだと。
「父上! 粥なら俺が作って千寿郎に運びました! なので心配せず──」
「これはなんだ」
振り返った父は、しかし笑顔などではなかった。
いつものきつい表情で俺の前に小瓶を突き付けてくる。
これは…粥のとろみ付けに使った片栗粉だ。
「蓋が開いていた。まさかお前、これを料理に使ったんじゃないだろうな」
「そうですが…とろみ付けに使用しました」
「とろみ付け?」
「それは片栗粉でしょう」
母上が生きていた頃、使用していたのを見た憶えがある。
自信を持って言えば、途端に父上の顔が青褪めた。