第22章 花いちもんめ✔
「ともかく、月房屋を経営する男達が全員死んだんだ。それじゃあ店も回らない。死に方が死に方だけに、此処で働くことを女達も嫌がってね。結果、人がいなくなった店はただの廃墟となり取り壊された。残していたって、気味悪がって誰も近寄らないんだ。他の店の邪魔にしかならないだろうし」
「……」
「いつしか誰も此処には寄り付かなくなって、いつしか花が芽を出すようになった。誰が種でも撒いたのか…供養のつもりかねぇ」
「…誰を供養するんですか」
腰を屈めコスモスを眺める松風の目には、あの頃の月房屋が映っているのか。
映っているならば、何故そんな哀愁のある顔ができるのか。
「あの男達ですか? 女を食い物としか考えていなかった」
それが蛍にはわからなかった。
「あの男達に、そんな価値があるんですか」
背後から見下ろす蛍の目は、松風ではなく淡く可憐に咲き誇るコスモス畑へと向いていた。
誰が、なんの為に撒いたのか。
理由はわからないが、それがもし男達へのはなむけなのだとしたら虫酸しか走らない。
「…取り壊しの際にさ。この土地から、埋められた古い白骨遺体が見つかったんだ。恐らく昔月房屋で働いていた女郎のものだろうと警察は判断した」
「……」
「誰が女郎を殺して埋めたのか。誰が男達を殺したのか。あたいには真相なんて何もわからないけど…これでよかった、なんて思っちゃいないよ」
冷たい蛍の視線を受けて、ぱんと着物の膝を叩いた松風が腰を上げる。
「確かに、あの男達の借金地獄からは抜け出せた。でもあの惨劇を最初に目撃した子は、暫くおまんまが食えなくなってね。普通の生活を取り戻すのに随分と苦労したもんだ」
「……」
「生きてるうちは、死んでしまえばいいなんて思うけどさ。実際におっ死んでしまえば、なんかこう、胸の奥がぽっかり穴開いちまってさぁ」
今一度見渡すコスモス畑。
其処にかつて建っていた背の高い建物は、まるで檻のように感じていたのに。
「こんな形じゃなく、どうせなら生きてる男達の面(つら)でも思いっきり踏ん付けて、この店を出ていきたかったもんだよ」
何もなくなってしまえば、随分と狭く小さな土地にしか見えない。
それが滑稽だと、松風は苦く笑った。