第22章 花いちもんめ✔
「んだよ野暮用って」
「なに、人を捜していてな。此処にはもういないようだから、別で情報を探ろうと!」
「だから雑かよって。その捜し人ってのは誰だよ」
「手助けは無用だ。これは俺の問題だからな!」
「さっきから質問に答えてねぇぞ煉獄。なら同じ柱のよしみで聞いてやる。なんなら俺がその情報を掴んでるかもしれねぇだろ、言ってみろ」
「必要ない!」
「なんでだよ!」
ああ言えばこう言う。
笑顔を浮かべてはいるものの、全く取り合わない杏寿郎につい天元も声が大きくなる。
わいのわいのと騒いでしまえば、閑静な昼間の色町。
焔色と銀色の髪は尚も目立った。
「ちょいと其処のお兄さん方」
「む?」
「あ?」
二人の言い合いを止めたのは、眉をひそめてこちらを睨むように見る女だった。
「変な所で変な騒ぎは止めておくれないかい。いい近所迷惑だよ」
「す、すみません」
「む。千寿郎が謝る必要はない。気分を害させてしまったのは俺達だ。すまない、ご婦人」
「待てよ"達"って、俺も入ってんの? 声デケェって何度も注意してた俺も?」
「君がしつこいのも原因だと思うぞ、宇髄。俺は切り上げようとした」
「お前が素直に吐いてりゃ俺もしつこくしねぇよ。勿体振る必要がどこにあるってんだ」
「別に勿体振るなどと」
「あんた達あたいの言葉が聞こえなかったのかい? 何処の異邦人か知らないが、此処は日の本(ひのもと)の花街だよ。日本語が通じない男は帰んな」
しっしっと犬猫を追い払うような仕草をしながら、傍迷惑そうに女が噛み付く。
日本人とはかけ離れた明るい頭をじろりじろりと睨み付け、しまいにその目は千寿郎にも向いた。
「子供だって此処にゃ邪魔なだけだ。さっさと帰んな」
そして最後に流れるように蛍へと女の視線が辿り着く。
竹笠を深く被り顔も肌も隠すような姿に、胡散臭そうな目を向けて細い眉を片方跳ね上げた。
「あんたも異邦人かい? 此処は海外の観光地じゃないんだよ」
「……ぜ…」
「言いたいことがあるなら、もっと日本語を勉強してから」
「まつかぜ、さん」
「出直し…な…?」
細い眉と同様、細い女の切れ目が見開く。
「松風さん」
もう一度、はっきりと。
顎を僅かに上げて、蛍は女の名を呼んだ。