第22章 花いちもんめ✔
くりくりとした団栗のような眼。
大きな丸い二つの耳に、尖った鼻。
ぴんと伸びた尻尾に、灰色の毛。
そして煌びやかな額当てと筋肉質な上半身。
(待って途中からなんか恐ろしく鼠らしくない)
というよりも恐ろしく見覚えのある特徴を持った鼠だ。
「こ…こんにちは」
意表を突く鼠の登場に驚きを隠せないまま、恐る恐る頭を下げて挨拶を向けてみる。
いつぞやの元旦に、してみたように。
「チュッ!」
すると小さな前足を片方上げて返したのだ。
まるで人間の挨拶を理解しているかのように。
「(やっぱり!)杏寿郎っ此処に天」
「おいおい」
弾けるように蛍が振り返るのと、花畑に立つ街路樹の上から声が被さるのは同時だった。
まさか、と見上げる蛍の目と。
え、と瞬く千寿郎の目と。
む、と声を絞る杏寿郎の目が向いた先。
「どこの派手な髪した連中かと思えば、炎柱サマ御一行じゃねぇか」
屈んだ姿勢で器用に枝に乗る銀髪の忍者が、こちらを見下ろしていた。
その名は、
「音柱か! 久しいな!」
「えっ音柱様ですかっ?」
「…ぇぇ…」
「相変わらず第一声がデケェな。つか"ぇぇ"ってなんだ聞こえてんだよ煉獄の声で掻き消せると思うなよ」
驚異の聴覚を持つ男。
音柱の肩書きを持つ、宇髄天元である。
巨体をひらりと軽々しく枝から飛躍させると、顔を渋める蛍の前に音もなく降り立つ。
改めて前にすれば、その上背故に頸が大きく曲がる。
太陽光を顔に浴びないようにと蛍は竹笠の端を握ると、杏寿郎の隣に並ぶように後退った。
「で、何やってんのお前ら」
「それは我らの質問だな。何故君が此処に!?」
「バッカ、だからデケェ声出すなって。此処は今は寝静まっちゃあいるが、色ま」
「あっ蚊が」
すぱん!と蛍の掌が天元の頬を打つ。
前に、寸での所で大きな手に掴まれ阻止された。
「久しぶりだってのに中々な挨拶じゃねぇか、蛍チャンよォ(蚊なんて何処にいんだ白々しい)」
「ちゃん呼びなんて止めて下さい薄ら寒い(寧ろ親切だから状況を読め)」