第6章 柱たちとお泊まり会✔
三番手 ❉ 煉獄 杏寿郎
「では次は俺が話そう」
「大丈夫か?」
「怖い話をすればいいのだろう? 問題ない」
いつもの張った声ではなく、落ち着いた声量で天元に頷き返す。
明るくハツラツとした杏寿郎に、怪談という雰囲気はなんだか似合わない気がしたけど…博識そうだし。
意外にも怖い話を知っているのかもしれない。
「俺の話は、実際にあった出来事だ」
「マジかよ」
「実体験ですか? 興味ありますね」
「うむ。あれは鬼討伐の任務後。時間が空いたので、生家に立ち寄っていた時のことだ──」
その日は久々に里帰りしたところ、運悪く千寿郎が風邪を引いていてしまい床に着いていた。
千寿郎(せんじゅろう)というのは俺の弟だ。
まだ幼いが礼儀正しく、心優しき少年。
いずれは煉獄家の立派な男となるだろう、自慢の弟だ。
「ケホ…っごめんなさい、兄上…折角お帰りになられたのに…俺、何も…できなくて…」
「気にするな。それよりいつから発熱していたんだ?」
「一昨日、から…」
「その間に食事は?」
無言で頸を横に振る千寿郎から、丸一日何も食べていないことを知った。
いくら父上が周りに無関心になっているとは言え、これはまずい。
早く何か滋養となるものを食べさせなければ。
「水分は取っているな」
「コホ…っはい」
「ならばよし。急いで粥を作って来よう。待っていろ」
父上への挨拶も足早に済ませ台所へと向かう。
念の為千寿郎の風邪のことを伝えておいたが、相変わらず素っ気ない返事一つ。
振り返りさえもしなかった。
千寿郎は幼いながら一人でなんでもこなそうとするしっかり者だが、それでもまだ子供だ。
弱っている時は誰かが傍にいて守ってやらなければならない。
柱となったが為に、家を空けることが多くなってしまったが…心配だな。
プス、プスッ
「む。いかん」
考え事をしている間に米は煮立ったようだった。
鍋の中を覗き込んで、白く光る米粒を少量口に入れる。
味は申し分ないが、少々とろみが足りないな…片栗粉でも足すか。
「これでよし」
卵と葱と鰹節も投入すれば、それなりに見栄えのよくなった粥が出来上がった。
うむ、美味そうだ。