第22章 花いちもんめ✔
『駄目だ。千寿郎は連れて行けない』
『お邪魔はしません』
『遊びじゃないんだ。蛍からも言ってくれ』
『ええと…千くん、明日行く場所は、ね…その、』
『場所がなんですか?』
『上手く言えないんだけど…』
『なんであれ、あの男を捜しに行くのでしょう?』
『そうだけど…』
『私はただ姉上が心配なだけなんです。お邪魔はしませんから。どうか、姉上の傍にいさせてください』
『っ…千くん』
『待て蛍なんだその顔は』
嘆く蛍の姿を見ていたからこその、千寿郎の心配する気持ちも理解はできる。
それ以上に小さな騎士のような覚悟を見せる千寿郎に、うっかり蛍はときめいてしまった。
結果、鬼殺に向かう訳でもなし。とどうにかこうにか言いくるめて、同行の許可を杏寿郎から貰い今に至る。
(記憶にない家族旅行か…確かに遊びじゃないけど、少しでも千くんと杏寿郎の思い出に追加できたらいいなぁ)
向かう先は花街。
十二、三歳程の少年を連れて行くには多少の抵抗もあったが、蛍の背を押したのもその花街にあった。
(それにあそこなら能楽を観られる場所もある。もしかしたら二人の約束を叶えさせてあげられるかもしれない)
あの、羽衣をいつか一緒に観に行こうと約束した、杏寿郎と千寿郎二人の約束を。
「姉上、体調はどうですか? 日差しは熱くないですか」
「うん、大丈夫。ちゃんと対策はしてるし。千くんも疲れたら遠慮なく言ってね。…お兄さんに言い難いなら、全部私に言ってくれていいから」
「ふふ。ありがとうございます」
「…堂々と目の前で内緒話をされるのも如何なものか…」
「ん? 疚(やま)しい話なんてしてないよ。ね、千くん」
「はい。兄上、簡単なものですが朝餉にお弁当を作ってきたので、どうですか」
「む」
「さつまいもご飯のおにぎりは私が握って、おかずは千くんが作ったんだよ」
「む…美味そうだ」
「おにぎりは沢山ありますから、遠慮なく食べてください」
「この茄子と蓮根の揚げびたしのおつゆ、少し味見したけど凄く美味しかったの」
「む…っでは頂こう!」
ぐぅ!と答えるように杏寿郎の腹が鳴る。
その様に目を合わせると、蛍と千寿郎は吹き出し笑った。